創造への軌跡book

□物事の本質
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「ここも随分、動物が減ったなあ。狩りにはちょうどいい森だったのに」





リッドがぼやく。変わらない毎日を望む彼にとって、悲しい変化なんだろう。


エステルが正式なアドリビトムのメンバーとなり、届けられた依頼。それはもちろん、コンフェイト大森林に起こった生物変化の調査だった。一度はサレに邪魔されてしまったけれど、今度こそ。アドリビトムとして、みんなでサポートをしながら行うことになった。

今回の調査に選ばれたメンバーは、エステル、フィリア、リッド。フィリアは分析能力から選ばれ、私は一番エステルの事情を聞いていたから選ばれた。そしてリッドは、目的地を聞いたとたん、彼にしては珍しく立候補してきて。ちらりとファラの方を見ると、苦笑いを返されてしまった。

よく分からなかったけれど、とりあえずは。現在地、コンフェイト大森林。





「そういえば、魔物は多いけど動物は見ないよね。最低でも、私が来てからはずっとじゃないかな」





私の覚えている範囲では、この森を動物が走り回っているのは見たことがない。鳥ならたまに見るけれど、それも森を住処としているかは怪しい所だし。本当に、魔物だらけというのが私のこの森の印象だ。





「星晶が採掘され始めてから、ですね。星晶は、生命の源であるマナを発します。だから、採掘される前は、この土地も生命に溢れていたんですが…」





静かな口調で、フィリアが教えてくれる。そういえばアドリビトムには、アンジュ姉さんやミント、フィリアなど、聖職者が多いなぁとふと思った。まぁ、元は教会が拠点だったらしいから当たり前なんだけど。

動物が減ったことに星晶が関係していると聞くと、エステルが小さくなって謝った。それに慌ててフィリアが謝る。そのやりとりを見ていたリッドは、なんだか微妙な空気になりそうで、すかさずフォローを入れた。…ちょっと適当に見えるリッドだけど、なんだかんだで気配りな人だと思うな。





「エステルが謝る事ねえよ。星晶採掘を命じたのは、エステルじゃないんだろ?」

「はい。王女ですが、わたしに止める権限は無くて…」





フォローするけど、やはり落ち込んでしまう。星晶採掘から起こる問題が分かっていない今、どうしても弱気になってしまうのかもしれない。





「だから、自分の意志で国を出たんでしょ?自分の目で現実を見て、それから何とかしようと努力する。まだ何も分かってないんだからさ、気楽に行こうよ」





ちょっと適当すぎる気もするけど、細かすぎても駄目だから。エステルに向けてグッと親指を突き出して、先頭をきって駆け出す。ちょうど近くにいたマンドロテンに喧嘩を売りに行くと、余計な戦いは避けろってリッドに怒られた。

そんなやりとりを見て、エステルは小さく笑う。





「はい。出来る事からで、いいんですよね」

「そうですよ。私達アドリビトムは、そうやって働いているのですから」

「そうだ。エステルはもう、立派なアドリビトムの一員なんだからな!」





少しだけ肩の力が抜けたように、エステルは笑った。





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