□高女
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高女(たかおんな)という妖怪をご存じだろうか

高女とは男に相手にされなかった醜い女が妬みや嫉みから妖怪化したもの

下半身が伸びることが特徴で、その昔宿屋などの二階を覗いて人を脅かしていたという

このお話はその高女と、恵まれた容姿と実力から人々の注目を欲しい侭にしていた

ある男の話






「さってと、どうしたもんかねえ…」

日もとっぷり暮れて人々が寝静まっている中、私はとある豪邸の門の前にいた。
理由は簡単、ここに住んでるある男に嫌がらせするためである。
なんでそんなことするのかって?実は私高女という妖怪なのだ
高女の生きがいは嫌がらせ、いつもは美人や可愛い女を脅かしているのだけど今回は違った。



始めはそいつについてまわっている女共を狙うつもりだった。
でもだんだんとその女共に取り囲まれてる男の方が憎くなってきたのだ。
私は生まれた頃から顔の左半分に大きな傷を負っていた。
親ですら相手にしてくれなかったひどさから、私は左側の前髪だけ伸ばして傷を隠した。
それでも私を愛した男はいたけど、どいつもこいつもこの傷を見せると逃げていった。
あの男を見ていたら、その時の記憶がよみがえってきたのだ。
ちやほやされてたってあのすかした顔の下は私を捨てた男共と一緒に違いないんだから



で、話は最初に戻る。
それがどうして門の前で手をこまねいているかというと、この屋敷のからくりに原因がある。
こんな門は足を伸ばせば簡単に乗り越えられるけど、前にそれで屋敷の敷地に入ったらけたたましい警報を鳴らされた。
人間が何人出てこようと構わないけど、事を行う時は静寂の中でが私の信条
その時は退散して、別の日に何度かやり方を変えて試してみたけどいつも失敗
しかも最初は警報だけだったのがどんどん物騒な罠を仕掛けられていくから、そろそろ失敗は出来ない。
でも罠が張ってある場所が未だにさっぱりわからない。
これだったら将軍のお城に忍び込む方が簡単だった。
それでも諦めきれずこうして人がいなくなった頃を見計らってここに来ている。



「裏口はとっくに試したし、こんな鉄みたいな地面じゃ掘って侵入も無理。あ〜ったく、ろくろ首だったら首だけ伸ばしてあの部屋の窓に……」

「何やってんだお前?」

「えっ、わあ!!?」



声のした方を振り向くと、男が一人立っていた。
暗くて見えにくいが、強気な性格が垣間見えるつり上がった目、青い瞳に整った顔立ち
細身だが鍛え抜かれてるであろう体つき
私が狙っているその男本人だった。



「女がこんな時間に歩いてたら危ねえだろうが」

「え、す、すみません…」



って何私で謝ってるんだ!
男が遠くから見た印象より優しくてつい…いやいやそうじゃないだろ!?



「ほら、車出してやるから家帰れ。場所は?」

「い、いえいえそんな!大丈夫ですから!」



何思いっきり下手に出ちゃってるの!?相手はただの人間なのに情けない…
私は驚かすのは好きでも驚かされるのはあまり得意ではないって言うのもあるけど、この男のオーラが自然と主導権を握ってくるのだ



「いいから乗せられとけ。んな恰好で歩いてたら馬鹿な男に襲われるぞ」

「だ、大丈夫ですよ!私こう見えても強いんです!」

「そうは見えねえが?」



私の着てる服はボロボロのかたびら一枚だけ。確かに昔はよく夜鷹と間違われたし今もそういうことがたまにある。
でもちょっと脅かしてやれば大抵逃げていくから問題ないのだが、当然そんなことは言えない。



「聞き分けのねえ奴だな。家に帰れない理由でもあるのか?」

「そういうわけじゃないんですけど…」



家なんてそもそもないのだ。今は町はずれの森にあるあばら家に住みついてるから一応それが家と言えるかもしれないが



「ったくしょうがねえな。じゃあこうしろ。今日は俺の家に泊めてやるから、朝になったら帰れ」

「……は?」



今なんて言った?俺の、家に、泊める……!?



「ふ、ふ……」

「あ?」

「不埒者――――!!!!」



気づけば大声で叫んでいた。これには流石の男も黙る。



「い、いきなり何言い出すの!?かか簡単に女家に泊めようとすんじゃないよ!!ど、ど、どこの女が見ず知らずの男の家に泊まるって言うんだよ!?」



まくしたてたらぜーぜーと息が切れた。
生娘じゃあるまいし何を必死になってるんだろうとも思ったが、そんなことさらりというこの男も悪い。



私が人間だった頃は女が一人で男の家に泊まると言ったら、宿賃として体を差し出すことは珍しくなかったのだ。
その感覚でつい変な想像をしてしまっても仕方ないだろう。
男はと言うとぽかんとした表情でこっちを見ている。
かと思ったら



「くく、ははははは!そうだな、お前の言うとおりだ」



笑われた。



「安心しな、取って食いやしねえよ」

「あ、当たり前だよ!」



察するに私が考えていたことは今じゃ笑われるようなことらしい。
穴があったら入りたい…



「で、でも私、何も持ってないよ?お金もないし」

「それがどうした」

「どうしたも何も泊めてもらっても何も返せないって話」

「俺が見返りせびるようなせこい奴に見えるのか?あーん?」

「いや、せこいとかじゃなくて普通だよ」

「まあわからねえ話じゃねえがな、気にするな。どうしても気になるってんなら何か考えといてやるよ」



もしかしてこいつすごくいい奴?
どこの世界に見ず知らずのみすぼらしい女をタダで泊める男いるんだろうか



「じゃあ決まりだな、入れよ」



男はこっちを見ながら門を開ける。



「あーはいはい。そうなるの。私は泊めてくれなんて言ってないのに」

「俺が決めたんだよ。いいからさっさと入れ」



まー横暴!
でも女の子がこいつを放っておかないわけがわかった。
横暴かもしれないけど決して自分勝手じゃない、女の扱いの心得もあるし器も大きい。
自分の家の前とはいえ、こんな得体の知れない女に話しかける度胸もある。
私が今まで抱いていたこの男の像はとっくに崩れ落ちていた。



「それとだ。」



門から屋敷までの道を歩いていると、ふと男は振り向いた。



「変にかしこまらなくていいぜ。今の方が俺は好きだ」

「なっ!?」



何を言い出すかと思えばそれ!?
顔がどんどん熱くなる私をよそに男はにやにやしていた。
女が放っておかないとかいう話じゃない!こいつたらしだたらし!!
いつか目にもの見せてやると再び心に誓ったが、自信はすこぶるなかった。
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