一日ブームのお部屋

□花火みたい
1ページ/1ページ


「はぁ?花火ぃ?」

「そ♪綺麗なんだぜ?」

明るく楽しげに笑顔を浮かべるアクセルを見て、ロクサスは訝しげに首を傾げた。
アクセルが言うには、夏の風物詩であり夜空に浮かぶ大輪の火の花なんだそうだ。
想像したら何だかおかしくて、ロクサスはつい薄く笑ってしまった。

「何だそれ、花と火って相容れなくないか?」

そもそも花は地に咲くもので、夜空を彩るものではないのに。
常識が多少欠けている自分でさえ、それくらいの知識はある。
それでもあまりにアクセルがしつこいので、渋々頷いて外に出た。
今日は祭りという催しをしていて、人間や食べ物で街が賑わうらしい。
威勢のいい騒音と、茹だるような暑さにロクサスは顔をしかめた。
全盛期の夏は、たとえ夜だろうと異様な熱気を振りまいているのだ。
そんなロクサスを他所に、アクセルは一人呟きを漏らす。

「・・・デート、してるみてェだ」
「・・・は・・・っ///」

手を絡め嬉しそうに笑う彼に、不覚にもロクサスは鼓動を高鳴らせた。
幸せそうに赤が笑うのに、俺ばっかり苦しいみたいで憎たらしい。
アクセルに今赤いであろう顔を見られるのは爵で、顔を彼から逸らし他の何かを視界に映した。
そうして見えたのは、仲睦まじい男女の姿。
共に指先まで絡め合い、口を緩め微笑み合う若者が溢れていた。

「何見てんだぁ?あ、浮気かロクサス!」

「ばッ・・・!///そんな訳ないだろっ!!」

アクセルに虚偽の疑いをかけられ、つい声を荒らげる。
周囲から痛いぐらいの視線が送られてきたが、そんなもの今はどうでもよかった。
それほどまでに憤慨して、気分を害し唇を少し緩めに噛んだ。
俺はただ、あんな風にお前と微笑んでいられたらとか・・・っ
ずっと一緒にいたいとか、指絡めたいとかっキスとかしたいとかッ
言いたい気持ちは、伝えたい想いは山ほど。
ノーバディ?そんなの知るか、心なんて知るか、ぐらい満ち溢れていた。
でも、言葉にできなくて、行動で示すことができなくて。
それでアクセルを不安にさせてしまったんじゃないか、と思うと自然と頬に涙が伝った。

「なッ・・・!?わっ悪ィ言いすぎたっ・・・ぃ、いくぞ」

自分の情けなさに腹が立つ。
アクセルに引かれる手の温もりが優し過ぎて、つらかった。
連れてこられたのは、いつもの“あの場所”。

「・・・ごめんな、冗談、みたいなつもりだった」

本当に落ち込んでしまった赤色を、濡れて歪んだ瞳で見つめる。
本当は、俺が悪かった・・・分かってる、ごめんな。
優しく緩慢な仕草で、ロクサスはアクセルの頬に触れる。
視線が交差した瞬間、ロクサスの潤んだ瞳と柔らかな微笑みにアクセルは見とれた。
そうしてどちらからともなく、互いの唇を近づけて静かに重ねる。
その最中にロクサスの華奢な体躯を、アクセルは愛おしそうに抱きしめた。
申し分ない甘い雰囲気の中、二人の熱が溶け合いかけたその時、
遠くない空で、小さな爆発音が耳に響き渡った。

「っ・・・びくった、花火かよ」

「あれが、花火・・・」

可愛い恋人の泣き顔を堪能できなかったことに、アクセルは内心舌打ちをする。
だが何気なくロクサスを見たアクセルは、至極驚いた表情のまま息を飲んだ。
花火とは、こんなにまでロクサスに映えるものだったのか・・・。
綺麗で美しくて、それでいて儚く散りゆくたくさんの火の粉。
それが見事にロクサスを淡く照らした瞬間、アクセルは目眩がして倒れるかと思った。

「・・・綺麗」

花火を見つめて優しく微笑んだロクサスに、アクセルもまた静かに笑いかけた。

「ああ、綺麗だ・・・ロクサス」

ロクサスが恋人の顔を見るより早く、アクセルは彼の唇に自分のそれを押し付けた。
遠くない夜空で、手を伸ばせば届く夜空で。
愛のこもった熱が、二人の空に光る想いを降らせ募らせた。
それは清く儚いけれど、けして消えることなく二人の間に溢れていく。
そうして心に、優しい花が芽吹いていくのを感じた。
長い口づけを終えればいつだって、二人に綺麗な笑顔は咲き誇るのだから。
遠くない夜空で、花火の音がいつまでも聞こえていた。



















お粗末さまでした。


 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ