一日ブームのお部屋

□白黒喪細工
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「ギル・・・」

俺の、俺だけの大切な従者。
愛しくて愛しくて、愚直なまでに優しい、俺だけの。

「オズ・・・っ」

ああ、ごめんな、ごめん。
だから、そんな顔しないで。
俺は自らに向けられた銃口の先に、最後のキスを落とす。
願わくは、この想いがこの冷たい鉛の塊を伝って、貴方に届きますように。
・・・なんて、今から俺に放たれる鉄砲玉に告げたって意味ないのにね。
さぁ、ギル・・・。

「さようなら、ギル」

「・・・っ、オズ、ッ・・・!?」

さようなら、優しくて甘くて残酷な、俺の・・・


「・・・っ、は」

目蓋と共に勢いよくギルバートは跳ね起きた。
暫しの間、荒れた彼の吐息だけが静寂を打ち捨てていく。
次第に覚醒してきた意識に、ギルバートは安堵のため息を吐く。
ふと自分の状態を見やれば、汗や何やらで、服もシーツも枕までも濡れきっていた。
それ以上に嫌な、考えたくもない悪夢だったとギルバートは眉を寄せた。

「っち・・・」

ギルバートは大きな舌打ちをして、ベッドから降りた。
とりあえず、誰かが来る前に何とかしなくては・・・
そんなことを考えながら、冷たい上着を脱ぎ捨てようとした瞬間、

「ギールー?起きて―――っ」

ドアのぶを捻る音と、愛おしい主の声がした。


「・・・・・ぅ、ゎ//」

ギルバートの上着が床に落ち、しなやかな彼の肉体が露にされる。
正直、驚くことでも何でもなかったのかもしれない。
何故ならオズにとって、ギルバートの裸体を見るのは初めてではなかったわけなのだから。
けれど、世の中には“不意打ち”という言葉が存在する。
実質オズは珍しいまでに耳まで真っ赤にし、戸惑ったように言葉を紡いだ。

「あっ、その・・!べ、別にアレ、いやあのっ、ごめん・・・ッ!///」

慌てた様子でオズはギルバートに背を向け、忙しなくもと来た道を引き返そうとする。
ちょうど、その時と同時であった。
何の前触れも物音もなく、ギルバートはその華奢な彼の肩を掴み回転させた。
あまりに想像しがたい出来事に、オズは目を丸くしてギルバートを見ようとした。
だがそれは叶わず、オズの頭はただただギルバートの胸に押し付けられる。
その自分を抱く腕が何故だか切なくて、オズはギルバートの背にそっと腕を回した。


心臓が尋常でないまでに焦っているのが分かる。
オズの姿が見えて、朱に染まる肌が見えて。
気が付けば己は愛しい主人を抱きしめていた。
ギルバートはすがりつくように、オズを包む腕に力を込める。
その答えは明確だった。
普段奥手で、けして自分から抱擁などと気の利いたことなど出来ないギルバート。
そんな真正の“ヘタレ”であるギルバートが、オズを求めた理由。

「・・・何か、悪い夢でも見たの?」

「・・・オズっ、・・・」

夢、夢だと分かっていても不安だった。
どうしても、オズが生きていて自分があることに、確証を持つことができなった。
あの時だって、思いもよらないことで引き離されてしまったのだから。
いつ彼がいなくなっても、有り得ないことだとは言い切れないのだから。
目の前で温もりを分け与えてくれるオズに、ギルバートは泣きたいような気持ちになる。
確かに自分はここにいるのだと、教えてくれる彼の感触に、体温に、存在に。
少しの間沈黙が続くと、やがてオズの唇が緩やかに開閉した。

「ギル、・・・俺はお前を残して逝ったりしないからね」

「オ、ズ・・・」

儚い空気の断片に、静かに言の葉を乗せるオズ。
ギルバートが腕の力を緩めれば、柔らかな笑顔を浮かべる彼がそこにいた。
拳銃なんていう重たい無機物がなくても、確かにオズの想いはギルバートに届けられたのだ。
それは何の制圧も制約もない、愛慕の詔。
そんな主の、ただ一人の愛する人の気持ちに応えるべく、ギルバートも心を紡いだ。

「・・・俺も、オズを置いて、どこにも行かない」

そう堅くギルバートが誓えば、オズの瞳は心底嬉しそうに細められて。
嗚呼、彼らの夢は遠い未来のことに間違いはなかったけれど。
彼らの愛に感化された何かの心が、その先を望むのなら仕方がない。
二人の世界が、もう少しでも永く生きられますように。
そんなことを世界の淵で何かが望んで、何かが奪われて死んでいった。
闇と光のコントラストは、尚も輝き続ける。
それが罪深きことだと知らずとも、知っていようとも同じこと。
真実と愛のコンチェルトは、明日も絶えず奏でられる。













お粗末さまでした。

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