オリジナル

□11月11日
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「ねぇ、今日って何の日か知ってる?」

本日何度目かになる質問を繰り返す。
雑誌を捲っていた手はずっと止まったままだ。

「お前の誕生日・・・は過ぎただろ。俺は・・・違うし・・・」

今日が別に誰かの誕生日って訳じゃない。
いや、誰かの誕生日かも知れないが、俺には関係ない。

「・・・知らないの?」

かれこれ1時間以上はこの状態。
本当に知らないなら、それでいいんだけど。

今日は11月11日。
ポッキーとかプリッツの日、って言いたいだけなんだけど。
ほんとにそれだけなんだけど・・・。

「うぅん・・・」

こうやって本気で考え込んでるヤツを目の前にするとそれすらも言えなくなってしまう。
何か、面白い。

「ギブアップ、する?」

これもまた、何度目かの言葉。

「いや、絶対に思い出してやる」

聞き飽きるくらい聞いた台詞。
そんなに悩む事でもないのに、むきになって。

本気で悩んでるその顔はかっこよくて好きなんだけど。
その瞳には今、俺は映ってない。
ちょっと、っていうかそれは、かなり面白くない訳で。

「そーそー、俺ポッキー買ってきたんだけど、食う?」

質問もその答えも、どうでもよくなって、俺は言った。
ほら、答え言っただろ。今。

「いや、今はいい。思い出してからもらう」

こっちを向かずに返事するこいつに、もう我慢の限界。
一緒にいるのにこいつの思考が俺に向かないのは何か不愉快だった。



「だぁぁぁ、もうっ!」

いきなり叫んだ俺にビックリして、振り向いた。

「なっ、何だ??」

その瞳にようやく俺が映る。

「今日は11月11日でポッキーの日、それだけなんだよ!」

俺が怒鳴りながら言った答えにぽかんと口を開ける。
何か、その顔は情けないぞ。

「・・・だから、ポッキー一緒に食べよっかなぁって・・・思ったんだけど」

本当はそれだけでもないんだけど、あえてそこは言わない。
誰がポッキーの日だからポッキーゲームしよう、なんて言えるかよ。

「・・・一緒に、ポッキー食うの?」

何か考えながら返される返事に、俺は頷いた。

「・・・ホントにそれだけ?」

考え終わったらしいこいつの顔はどう見ても笑っていて。
これは何か企んでる顔だ。

「なっ、何考えてんのか知らないけど、それだけだよ!」

俺は言って、顔を逸らす。
このまま見つめ合ってたら何が起こるか分からない。

「ふ〜ん・・・」

意味深な含みを持っていそうな返事。
背を向けた俺は、持ってきたカバンからポッキーの箱を取り出した。

「あーあ、お前がずっと悩んでたから腹減ったじゃん」

わざと怒ったように言って、無造作にポッキーの包み袋を開けた。
1本。ガリガリと噛み砕きながら口に入れる。

「一緒に食うんじゃなかったっけ?」

後ろで動いた気配と共に聞こえた声は俺のすぐ後ろで。
くいっと頭を引っ張られた。

「・・・んんっ!?」

無理やり振り向かされた俺はいきなり唇を塞がれた。
開けっ放しだった口に遠慮なしに舌が入ってきて、絡めとられる。

「んぅ・・・」

飲み込みきれてなかったポッキーが舌の間で絡まって、変な感じ。
動き回るそれとチョコの甘さに、一瞬意識が飛びそうになって。
俺は手を握り締めて耐えた。

「・・・ふぁ・・・」

散々俺の中を動き回ったそれが、ようやく俺を解放した。
新鮮な空気を求めて、浅く呼吸を繰り返す。

「・・・うぅん。やっぱ甘いな」

深いキスをしておいて、その言葉。
こいつは甘いものが苦手だった。

「なら、キスなんてしなきゃいいだろ」

台無しになってしまった1本目の代りに、2本目をくわえた。
手を添えなかったポッキーは揺れながら短くなっていく。

「だって、なぁ・・・」

不適な笑みを浮かべたまま、顔が近づいてくる。

ポキッっと音を立てて、ポッキーは俺の唇まで数センチの所で折れた。

「ポッキーゲーム、したかったんだろ?」

俺から奪った折れたポッキーを口にしたまま、笑う。
至近距離のその笑顔に、顔が熱くなった。

一応自覚していたつもりだったが、俺はこいつの笑顔に弱い。
言われた事が図星だった事もあって、俺はもうダメだ。

「・・・ん、なに?」

ふと、腕を掴まれる。
ポッキーの袋を持ったその腕はあいつに差し出すように伸びた。

「ん」

器用に袋から1本口にくわえて、俺に差し出す。
俺は少しためたって、もう片方の端をかじった。

それでも一向に動かないこいつに痺れを切らして、俺はさらにかじる。
ポッキーはどんどん短くなって、唇はどんどん近くなっていく。

「んっ・・・」

最後までかじりついて、唇が重なった。
本日2度目の甘いキス。

「・・・甘い」

離れると同時に発せられる言葉。

「もう・・・じゃあ、来年はプリッツにしようか」

甘いものが苦手なこいつのために、来年はプリッツを買おう。
サラダはしょっぱいから、ローストかな。


俺は笑いながらもう一度キスをした。

それはクリスマスよりも早い、甘い、甘いキス。


End...
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