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□閉話羅列
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なんだろう、この感覚は。
霞掛かる視界、非現実的な浮遊感。
上下左右すらわからないのに、イメージだけが流れ込んでくる。
様々な人達、様々な家庭、様々な場面・・・。
しかし
「・・違う・・・」
そのどれにも、私の求めているモノは、無い。
どこに忘れて来たのか、なんで壊れてしまったのか、
何故かもう、思い出せないけれど、
「私にはもう、────なんて・・・。」


そこで目が覚めた。


上下感覚を取り戻した後、最初に感じたのは布団の感触だった。
少女:(・・・・?・・)
布団に入った経緯が思い出せない。
そればかりか‘昨日までどんな生活をしていたか’すら思い出せない。
少女:(・・私は・・・何を・・?)
わからない。記憶を辿ろうとすると、頭痛で意思がかき消される。
霞む精神と、怠い身体。
そも、ここは何処なのだろうか。
気が付けば、何か聞こえる。
自分のすぐ傍から、
歌・・・・鼻歌だろうか。
ゆっくりと、聞こえてくる方向に視線を向ける。
環:「〜〜♪」
自分より少し幼いくらいの女の子がそこにいた。
特徴的なのは、可愛らしい服と、ネコミミ。
少女:(メイドさん・・・なのでしょうか・・)
耳がぴょこぴょこ動く。
少女:(・・・・?)
だんだん、頭が目覚めて来た。
環:「ー♪、♪♪、」
スラリと伸びたしっぽが揺れる。
少女:(・・・!?)
目の前の非現実に、脳味噌が一瞬で覚醒する。
環:「ーー♪、〜♪〜♪」
しかもよく聞くと、その鼻歌は昭和の名曲“黒猫のタンゴ”。
少女:「ねこ・・・・さん・・?」
勝手に声が出ていた。
環:「ぁっ!、よかった、お目覚めになられましたね。」
少女:「・・・?」
環:「おはようございます。痛いところとか、なんか気持ち悪いとか、ありませんか?」
少女はとりあえず首を横に振る。
そんな身体の怠さよりも、目の前の緊急事態の方が問題だ。
環:「お腹空いてませんか?もしよければ何かお作りしますけど。」
自分は、寝ている間に異世界にでも来てしまったのだろうか。
まさかこの世界では全生物にケモノミミが付いていたりするのではないか。
無意識に、手が自分の頭を探り、やがては耳に触れる。
人間の、耳。
環:「耳・・?、ぁ、コレ、ですか?」
その様子を見た環が察した。
環:「私、正真正銘の猫なんです。だから耳もしっぽもあって・・。戸惑うかもしれませんが、納得してください。」
納得しろと言われても。
環:「今、水をお持ちしますね。」
そう言うと、環は丁寧に会釈をして、少女にあてがわれた部屋から出ていってしまった。
少女:「・・・?」
正真正銘の獣耳と尻尾。
且つ可愛らしいメイド服。
もしかしたら自分は、とんでもないところへ来てしまったのでは。
不安は募る一方だ。
しかしそれと同時に、少女には一抹の期待を感じずにはいられなかった。
ここならば、自分の求めているものが見付かるのではないか・・?
一瞬、そんなことを考えたが、すぐにその考えを振り払った。

コンコン、

ノックの音。
環:「入りますよ?」
少女:「ど・・どぅ・・ぞ・・・。」
少女は非常に小声で、呟くように言った。
環:「失礼します。」
環はさっき言った通り、水差しとグラスを持ってきていた。
少女は上体を起こすと、会釈で感謝の意を表した。
環:「ぁ、申し遅れました。私、環と申します。颯凪家でメイドをやらせて戴いております。よろしくお願いしますね。」
環はにっこりと微笑んだ後、グラスに水を注ぐ。

コンコン

そのグラスを少女に差し出した直後、部屋に再びノックが一つ。
環:「ぁ、いらっしゃいましたね・・。部屋にお入れしてもよろしいですか?」
環が少女に問い掛けると、少女はきょとんとしたような顔で頷いた。
環:「どうぞー。」
御影:「失礼しまーす。」
御影はいつも通りやる気の欠落した顔で、少女の部屋に足を踏み入れた。




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