夢の記憶

□第五章
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サーキブル
「‘月面の観者’?…んなもん訊いたことねえぞ…?」

ドロッチェ
「…‘月面の観者’は歴史を『観る』者。決して当事者にはならないため、知る者はいない」

サーキブル
「……へえ。んで、‘月面の観者’は観るだけの集まりなのか?」

ドロッチェ
「……古文書の通りなら、そうなる」

サーキブル
「……古文書?」

すると、ドロッチェはおもむろにマントの下から二つ折りの古めかしい厚紙を取り出した。いつも持ち歩いてるのか、こいつは…?

ドロッチェ
「‘月面の観者’

それは月の如し存在…

何者も右目にその青い瞳を宿し、

全てを見通し、知り、

そして何もかもを観る、

…しかし、近付かない

観るものに近付くべきではない

…もし近付くなら、やがて『ソレ』は大きくなり、

…全てを失うだろう…」

ドロッチェはマントの下に古文書をしまい、顔を上げた。


ドロッチェ
「…ここから先は途切れている」

サーキブル
「続きあるのか…?」

ドロッチェ
「ああ」

サーキブル
「……う〜ん。その文の通りなら、‘月面の観者’は所謂、え〜っと……」

ドロッチェ
「傍観者」

サーキブル
「…そうだ、それ」

ドロッチェ
「間違いではない」

サーキブル
「…それじゃあ、みんなそうなのか?」

ドロッチェ
「…みんなそう…?」

サーキブル
「…全員が同じ考えを持っているのか?…ってことだよ」

ドロッチェ
「大体はそうだが、…そうだな。違う考えを持つ者もいる」

サーキブル
「違う考え……?」


ボルン
「待ってください!」

その時、急にボルンさんが割り込んできた。…何か今日割り込まれるの多いな俺……。

ボルン
「先ほど月の仕業と言いましたな!」

レン
「つまり、誰がこんなことをしたのか解るのですかぁ!?」

村長まで現れ、ドロッチェに詰問を開始した。するとドロッチェは…

ドロッチェ
「…可能性はある。

なぜなら…」

ドロッチェは目を閉じ、

ドロッチェ
「……月面の観者には特殊な能力がある」

そう呟いた途端…




ブオン…!

サーキブル
「な…!?」

途端、ドロッチェはその場から姿を消した

プラズマウィスプ
「……上!」

プラズマウィスプの言葉に従い、上空を見上げると、そこにはドロッチェがいた…

ドロッチェ
「技の名を‘月面移動(ムーヴ)’

所謂、瞬間移動と呼ばれる能力だ」

その後、ドクが説明を加えた。

ドク
「闇の一族が使う、‘闇の移扉’の様に空間に穴を開ける動作も必要無い、…完全なワープ。月の者は主に‘魔術’と呼ばれる能力を使うのじゃ」

…魔術ねえ…。魔法なんておとぎの国の話かと思ったが、…ドロッチェは先ほどから宙に浮いている。…否定できないな。

サーキブル
「その能力で村を消したってことか…?」

ドロッチェ
「可能性があるだけだ。普通は村を丸ごと消すなど‘月面の観者’の力を持ってしても不可能だ」

だが…、とドロッチェが付け足し、こう続けた。

ドロッチェ
「…不可能を可能にする男を一人知っている」

不可能を可能にする男…?

サーキブル
「いやにかっこいい異名だな。…一体誰だよそりゃ…?」

ドロッチェ
「不可能を可能にする男…は奴の異名ではない。

……奴の異名は、」














‘総ての元凶『策略家のマルク』’















サーキブル
「……すべての…元凶…? 策略家だって…?」

ドロッチェ
「奴は‘月面の観者’の中でも魔術の能力がずば抜けて高い。

……そしてかなり頭もキレるせいか、奴は策略家とも言われ、この世界が奴の手の平で弄ばれているとも言われている」


サーキブル
「……そいつが、この村を消したってのか…?」

ドロッチェ
「……月の者は星空の使徒と同等に希少な存在だ。奴しかいないだろう…」

サーキブル
「……なんのために…?」

俺はぶつけようのない怒りを、無理矢理ドロッチェに向けている様だった。二人の村民が取り残されているにも関わらず、村と他の村人全員を丸ごと消した……。納得のいく説明をしてもらわなきゃ、俺も頭に血が昇って何をするか解ったもんじゃねえぜ。
何も知るはず無いドロッチェにこんなことを訊くのは、言いたかないが気休めだ。訊きたいことが本人に訊けなかったら、誰でも良いから訊いてみたいもんなのさ。

ドロッチェ
「……」

サーキブル
「………………スマン。知るはずも無いのにこんなこと訊いて…」

ドロッチェ
「…奴のことは良く知っている。だから、大体予想がつく…」

サーキブル
「…え…」

俺は一瞬にしてこの場の空気が変わったことを察知した。


━━何故?


空気が変わった…? どうゆうことだ?……俺は見上げる。すると、ドロッチェが緩やかに地面に降り立った。


━━そして









ドロッチェ
「どうしてお前がここにいる…?」

何を言ってるんだ…?
…と思い、ドロッチェの顔を良く見上…………

サーキブル
「……!!!」


━━そこに、…ドロッチェの背後に、……誰かがいる


サーキブル
「……まさか…」

ゴクリ。唾を飲み、俺はしっかりと見据える。
そして、耳を澄ました…。

ドロッチェ
「…マルク」


そいつは、声無き失笑を漏らすと、ゆっくりと口の端を歪めていった。そして、やけに幼い声で、奴は……『策略家マルク』はこう言ったのだ。

マルク
「ドロッチェ、ボクの事を言い触らすのは止めた方がいいのサ」

おっほっほっほっ、と奇妙な笑い声を出し、奴は付け足した。

マルク
「…痛い目『観る』ぜ…?」


















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