涼宮ハルヒの憂鬱

□『涼宮ハルヒの休息』
2ページ/11ページ





何はともあれ、今日の授業は全て終了した。
俺の足は自動的に文芸部室へと直行し、徐にノックをする。

「………」

三点リーダーが連続した。と言うことは、あいつだけか。
ドアを開けると読みはドンピシャ。

「よう長門」

SOS団で唯一の文芸部員。長門がパイプ椅子に腰を落ち着かせて、小説を読んでいた。
俺に気付き顔を向け、僅かに髪を揺らした。その後すぐに小説のページへと視線を戻す。会釈のつもりだろう。

俺も馴染みのパイプ椅子へと腰を落ち着かせた。

「………」

「………」

長門と二人だけというシチュエーションほど、辛いものはない。ひたすら三点リーダーを連続させ続けるのは、思ったよりキツイことなんだぜ?
何か話題でも出そうかと思ったが、思い付かない。何となく本を読み続けている長門を眺めてみても、反応など皆無だった。微動だにしない。

…すぐさまこの空間から逃げ出したいという衝動に駆られていると、部室の扉が開いてくれた。

「おや。お二方だけですか?」

古泉だった。
良いところに来てくれたぜ。

古泉は鞄を机に置き、自分のパイプ椅子に座ると、口を開いた。相も変わらず笑みを広げたままで。

「会誌の部数は減る一方ですよ。順調のようです」



━━会誌と言うのは、SOS団全員と、鶴谷さん、谷口、国木田が書いた小説やらポエム、豆知識を詰め込んだ、文芸部発行の機関誌だ。

なぜこのような物を作ったかというと、ハルヒが待ち望んでいたような生徒会長が敵意剥き出しで登場して、長門に文芸部らしい活動を行わなくては廃部と宣言したからだ。それを文芸部でもないのに部室を占領しているハルヒには宣戦布告に聞こえたらしく、えらくやる気になって編集長と書かれた腕章を身に付け出した。
生徒会長は三日以内に手渡し、宣伝無しで、二百部を完部することが出来なくては、ペナルティを科す……と言い残していたな。



まあ何とも、都合のいい話だと思わないか?
首を突っ込んでも得にならないなんて解りきってる。そんなことをご苦労なまでにやる奴なんて、いるはずがない。

……何を隠そう、この生徒会長は、古泉所属の『機関』に祭り上げられて生徒会長になったらしい。
ちなみに仲間と言えど『機関』に直接所属していない。条件付きでの協力だとよ

いくらハルヒに退屈しのぎさせるためとはいえ『機関』の連中もご苦労なことだよ。
この生徒会長も似非生徒会長とは言え、中々演技には力が入っている。自分でも地がどっちだか解らなくなってんじゃないだろうか?









「僕も頑張った甲斐がありましたよ」

古泉は満面の笑みである。まあ、確かにな。お前の小説も中々の出来だった。内容は殆んど体験したことがあるようなものだったが…。

そういえばハルヒも書いていたが、それはよく解らない論文じみたものだった。実は驚くようなものなんだがな。





「この分ですと、もしかしたら今日中に全て捌けてしまうかもしれません」

内容は身内びいきを差し引こうとも、かなり充実していたと言えるが、そりゃ驚きだな。ハルヒの行動がそのまま宣伝になったのだろうか。

「涼宮さんも満足そうでしたよ」

そうだろうよ。今日中に完部した途端、生徒会室にわざわざ出向いてまで報告をするかもしれん、あいつは。

「ああ、そういえば朝比奈さんによると、涼宮さんと部室で何かしていたようですが……何をしていたんですか?」

いかがわしいことを考えるなよ。お前の言われて書いた二文が、プリントアウトしてブレザーのポケットにしまった直前ハルヒに見つかり、妙に嗅覚のいいあいつと取っ組み合いになっただけだ。

「それはそれは…すみませんでしたね」

くすっ、と笑みを溢しながら古泉は言う。
全然謝ってるように見えないのは気のせいか?
殴りたくなってきたのは気のせいなのか?







「ふふ、すみません。あ、そうそう。一勝負どうですか?」

古泉が将棋を取り出しながらそう言った。

「まあ、いいだろう」

と、玉将や桂馬を並べている古泉に言ってやった。

……それを聞くと、古泉は笑みを広げて王将を俺側の盤面に設置した。






























.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ