『一円玉爆DAN!(仮)』

□プロローグ
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三月だと言うのにまだ暖かい訳でもなく、どちらかと言えば寒い位の気温の中、俺は腹の虫を落ち着かせるために最寄りのコンビニへと足を運んだ。「……っしゃいやせー」と、…今何言った? とも思える、最早歓迎を表す言葉になっていない、店員のやる気無さ全開の言葉が聞こえてきた。俺は二つのおにぎり(具はシャケだ)とペットボトルのお茶を瞬時に確保し、雑誌を適当に眺めた後レジに向かった。言っておくがエロ本じゃないぞ…?

「…温めますかー?」

「そのままで」

「あい」

やる気の無さ全開の言葉は尚も続いているな。半年前からここにはよく寄るが、この人はいつもいる。だから、俺にとっては当たり前の日常風景になっている訳だ。今更態度についてとやかく言おうとは思えない。ん?…まさかこの人店長だったりしないよな?

「…三百五十一円」

店員が素っ気なく俺にそう呟いた。…ああ、まったく。「になります」とかを付けろ。何を意図してるか解らないだろうが、値段を呟くだけじゃ。まあいつものことだし、口には出さないがね。俺はサイフを手に取り、おもむろに小銭を取り出そうとする。

「あ」

しまった。思ったより金が少ない。…いや、貧乏とかそんなんじゃないぞ。現に俺は自分が通っている中学校の制服を着込んでいるし。まあ一先ず俺はサイフから探し当てた三百五十円を置いてと…あ、少し待ってくれ。一円が見当たらない。

「…三百五十一円…です」

解ってるよ。あんた、やる気無いなら一円位負けてよ。おい、マイサイフ。お前も観念して金を吐き出せ。後一円何だよ。金を吐き出せコノヤロウ。



って言っても無いもんをサイフが吐き出すことはまず無いな。店員もめんどくさそうな顔をしていらっしゃるし、ここは大人しく商品を減らすとするか。



━━そう思った時



「ん?」

俺の視界に第三者の手が侵入してきた。レジに向けて人差し指で一円を滑らせている。その第三者はこう言った。

「貸してやる」

女性の声。俺は「ありがとうございます」と言いながらその女性の姿を確認した。

「………」

この無言は俺のだ。なぜって、無言になる程の美人だったんだよ。ああ、彼女も中学生のようだな。制服を着込んでいる。この制服は……西中のかな? ちなみに、俺んところは東中。俺はまだ彼女の人差し指から離れていない一円玉を、いそいそと人差し指で取ろうとしたのだが、……なぜだろう。離してくれない。

「え、…と?」

再び彼女に顔を向けると、何だか不機嫌な顔になっていて……。

「必ず返せよ」

「は?」

「貸すんだからちゃんと返せってことだよ!」

「……一円位」

「返せよ…?」

「…あ、はい」

同級生なのについ敬語になっちまったよ。顔に似合わず随分強気な奴だな。俺はおずおずと一円玉を受け取り、店員へと差し出した。店員はやれやれという風に「…丁度お預かりしやす」と言って、ビニール袋に商品を詰めた。



「ありがとござやしたー…」

俺は商品の入ったビニール袋を受け取り、まだ突っ立ってる彼女を見た。

「えっとさ。返すって、」

いつ?…と聞こうとした俺を遮って

「当てがないのか?」

眉を潜めて彼女は言った。

「いや、そういうわけじゃないよ」

と俺が言うなり。

「じゃあ返せ」

眉を釣り上げてこう言う次第だ。一円位返してやるさ。だが、どこで?…と聞こうとした俺をまたも遮って彼女は言った。

「お前高校は何処に行く?」

は? 何だ急に?

「東高だけど…。あ、近くのだよ」

すると、彼女は不機嫌な顔から微笑へと緩やかに表情を変えて言った。

「それじゃあ、入学式に」

彼女は髪を翻し、行ってしまった。









━━それが彼女との、初めての出会いだった━━









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