日雛のお話第2巻
□深窓の姫君
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「冬獅郎!どこ行くんだい?!」
小さな町工場の、大きな女将さんは銀髪の少年を捕まえて言った
「放せよ!どこだっていーだろ?!仕事終わったんだから」
「ったく毎日毎日仕事終わったと思ったらこそこそ抜け出して。あたしゃお前が人様の迷惑になってないかって心配で心配で…」
「余計なお世話だ!」
その拍子に女将の腕から抜け出ると少年は駆け出した
「あっちょっと待ちな!とうっ」
女将の制止も聞かず少年は走りやがて姿が見えなくなった
「いいじゃないか」
後ろで見ていた親方は優しく微笑んだ
「あれで仕事もちゃんとこなしてるんだ。問題はねぇ」
「でもアンタ…」
「大丈夫だ。あいつもいつまでも赤ん坊じゃねぇんだ。心配いらんさ」
親方はタバコを吹かして言った
「だといいんだけどね…」
女将は心配そうにうなずいた
「そういえばアイツ、桃って女の子に会ってるらしい」
思い出したように親方は言った
「どこのももちゃんだか知りませんけどね、あの子にはまだ…ってまさかももって…」
「同じだな。姫の名前と。」
「そんな…あの子が…」
女将は困った顔で親方を見た
「こればっかりはどうしようもねぇな。その桃って子が町娘であることを祈るしかねぇ」
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