日雛のお話第2巻

□REAL Escape
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“桃ちゃん桃ちゃんあそぼー”

“ダメ!桃ちゃんはあたしと遊ぶのー!”

“ボクとだよ!”


小さい頃から桃は明るくて誰にでも好かれたからしょっちゅう桃の取り合いは絶えなかった 

俺はというとその様子を少し離れた場所から眺めているだけだった 

その頃の俺にはまだ独占欲はなくて、日が暮れて遊び疲れてから桃と同じ家に帰るだけで良かった 
“シロちゃん帰ろ?”


これは俺だけの特権だった。
いくら友達が桃を取り合っても、どんなにひとりぼっちでさみしかったとしても桃がうれしそうに駆け寄ってくればもう桃は俺のもんだった。


どこへ行っても桃はみんなのアイドルだった


うらやましいほどに 



それは… 
いまもそうだろ? 











“雛森副隊長なんか大嫌いです。”



壁ごしに聞こえる声が恐ろしかった

下手をすれば雛森自身より怯えていたんではないかと思う 


絶対、泣いてる。 

人に嫌われたことなんかないはずのあいつがこんなにはっきりと言われて泣かないはずが無い 




俺は意を決して部屋に入った。 

雛森を守るために 


けれど目に写った光景は俺の予想を裏切った

雛森は一際厳しい表情で目の前をにらんでいた



よく見ると雛森のベッドのそばに立っていたのは十番隊五席の奴だった。


「あ、日番谷くん」

雛森は俺に気付くと笑いかけた 

恐る恐る振り向いた部下は何も言わず俺に頭を下げて出ていった


その目に涙が浮かんでいたのを俺は見逃さなかった


「ごめんね?いまちょっとだけたてこんでて…」

雛森の妙にさばさばした態度が余計に俺を不安にさせた


「お前…」


お前は誰だ? 

俺の知ってる雛森じゃない 


「今の…」

「あぁさっきの子?
…へへ、嫌われちゃった。」

そんなはずはない。
俺の知ってる雛森は明るくて、少しばかりドジだが誰にでも好かれてて

だけど、泣き虫で…

「な、んで…」


なんで笑ってんだ?

こんな悲しい思いは初めてなんだろ? 


なんで出ていった奴が泣いてお前は笑ってんだ? 



「大切に思うものが同じだっただけだよ。だけど、あたしもあの子も譲れなかったの。だからちょっとケンカになって…」


「喧嘩…?」


「そう、ケンカ。あんなに一方的に言われたのは初めてだけど…」
 








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