日雛のお話
□月夜道
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―暗い暗い夜道を月明かりが照らす―
今宵も闇が輝く星を飲み込んで行く
『月夜道』
「本当に行くのか…?」
真夜中も過ぎた頃、執務室から自室に戻る最中にいかにもな格好をして西門前をうろうろしている雛森を見つけた
訳を聞くと倒れた祖母の見舞いだという
高熱でうなされているというのは俺自身昼間に聞いた話だ
すぐにでも駆け付けたいが目の前の仕事を例の部下のように投げ出すのは無責任だと訪問を諦めた
ちょうど自分が無理ならせめて雛森が側にいてくれればと考えていたところだ
だとしてもこんな時間に行くのは検討違いだ
そもそも昼間の流魂街ですら一人で歩かせるのは危険なのに暗い夜道は尚のこと
精一杯の困った顔で雛森を見ると深夜だということを忘れてしまいそうな程、場違いな笑顔に拍子抜けする
「大丈夫だよ、門出て直ぐだから」
「それはそうだが、何も今日でなくてもいいだろ?明日の朝行けば良いじゃねぇか」
「だっておばあちゃん、苦しんでるのに一人ぼっちじゃ余計辛いじゃない」
月の光がわずかに雛森の悲しげな表情を捕えた
まるで自分が病に倒れたような辛そうな顔
あぁ、そうだった
こいつは誰よりも人の痛みや苦しみを嫌うんだ
誰よりも戦いを嫌い
平和を愛す
本当、たいした正義のヒロインだ
俺はそんなこいつだから守りてぇって思ったんじゃねぇか
「ね、大丈夫だからお願いッ日番谷くん」
「わかったよ
だが俺も行く。」
「えっ?でもシロちゃんお仕事が…」
「持っていく。
待ってろ。今ジダン坊起こしてくる」
「うん」
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