日雛のお話

□三冬月ト長調
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12月19日
亥の刻(午後11時)

いつも通りの残業に取り掛かりつつもウトウトし始めた日番谷は窓の外を見た

(月が見えねぇ…)


窓の外に広がる暗黒は容赦なく日番谷の不安を煽る

(今日も徹夜か…)



寒さで凍える手に鞭をうって筆を進めた


「日番谷くん」


「雛森…」


そろそろと執務室へ入ってきた雛森は薄着で寒さで頬が林檎の様に赤くなっていた


「こんな時間に何しに来たんだよ」


「やだなぁもう、こんな時間だから来たんじゃない」

一瞬日番谷はドキッとした想いは届いていても未だ最後の一線を越えられずにいた二人の関係
いよいよ彼女にも心の準備が出来たのかと胸が踊る
緊張は寒さで余計に心臓に響いた


「ほら、見て」


雛森が指差したのは時計
時刻はすでに12時を回っていた


「は?」


未だわからない日番谷に雛森は少し眉間に皺をよせて言った


「誕生日おめでとう、日番谷くん」


途端に日番谷は勝手に高鳴り続ける心臓の音が恥ずかしくなった


「…ありがとう」

自分の誕生日さえ忘れているのに妙なことには気がまわり過ぎて困る、と日番谷は自嘲した
仕方がない。これが男の性なのだ

「えへへ。あ、日番谷くん見て!雪!」


見るとさっきまで降っていなかった雪が舞い落ちてくる

「どーりで寒いと思った」


「うん。綺麗ねぇ」


「今年は初雪が早いな」


「きっと今年の誕生日はいいことあるんじゃない?」


「…だといいな」


雛森がこんな時間に眠い目をこすりわざわざ自分に会いに来てくれたことがすでに‘良いこと’だと思ったことを日番谷はあえて口にしなかった



時計の針は刻々と進む
窓の外の雪は深々と積もる

まるで聖夜に歌うミサのようだった


『三冬月ト長調』





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