日雛のお話
□Keep to 0(love)
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散らかった書類やら文具やらを掻き分け空いたスペースに日番谷は弁当箱を取り出した。
太陽の光さえ遮るように立ち並ぶビル街の一角。洒落た外装が特徴のビルの15階のオフィスに日番谷はいた
パソコンのディスプレイに写った株価変動のグラフを見つめながら弁当箱を開けた
「日番谷さん。」
話しかけてきたのは入社三年目の女性社員。自称日番谷のお茶出し係である
「お昼の休憩中もお仕事ですか?熱心ですね」
「いや。この間の会合があまり良い内容じゃなかったんでな。株価に影響が出てないか心配だっただけだ」
「やっぱり、熱心じゃないですか。
はいお茶です」
微笑みながらお茶を渡す
左手薬指の貴金属を触りながらそれに愛想笑いを返す
「あぁ、サンキュ」
結婚してから大分減ったものの、相変わらず日番谷に寄って来る女性社員に対してかなり扱いが慣れてきたと本人も自覚している
毎日毎日、こう取っ替え引っ替えお茶出しが変わるとその都度同じようなことを言われているので嫌気がさしていた
はぁ、とひとつ。
大きな溜め息をつく
さっさと帰って可愛いい新妻に癒されたい
エリートの心のよりどころは最早妻しか無かった
「これ愛妻弁当ですか?こんな美味しそうなのうらやましいですー」
弁当に詰め込まれたおかずには冷凍食品は無し。嫌いだからなあれ。
全て手作り
「いや、俺が作った」
「日番谷さんが?もしかして奥様料理出来ないんですか?」
「いや。最高に上手い」
「じゃあなんでですか?」
「まぁ…な…」
「?」
「おーい、君!儂にも茶をくれ」
「あ、部長だ」
「早く行けよ。減給されっぞ」
「はぁい。全く名前も覚えてくれないような部長にお茶出すのやだなー」
そんなことをぼやきながら給湯室に向かった
「…俺だって覚えてねっつの」
瞬間的にでも覚えれば絶対忘れない日番谷ですら既に30人以上変わったお茶出しをいちいち覚えてられないのだ
この仕事に就いて15年。今まさに働き盛りの日番谷は会社内では名の知れたイケメンエリート社員であった
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