小説《カコベヤ》
□GIRL'S TALK
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「で?香穂はどんなタイプが好きなのよ」
学校帰り、駅前のカフェで。
明るいテラス席を陣取って、日野香穂子、天羽菜美、冬海笙子は話に花を咲かせていた。
というより、二年コンビにおとなしい一年生が巻き込まれた、というのが正しい。
それはともかく。
女の子が集まれば、必ず出てくるのは、恋の話。
★ GIRL'S TALK ★
「え!?私!!??」
香穂子はいきなり振られて、飲んでいたカフェラテにむせそうになる。
好奇心旺盛な菜美にかかれば、カフェもたちまち記者会見場だ。
「…楽しい人、かな」
不意打ちながらも語りだす。
ということは言いたくないわけではなさそうだ。
「私まで、元気にしてくれるの。何があっても明るいって、すごいことだと思うんだ」
照れながら話す様子に、菜美は『ゴチソウサマ』と心で合掌する。
香穂子の身近で、ひたすら元気を与え続けられそうな存在といえば、コンクール参加者のトランペット奏者しかいない。
実名トークでもいいのに。
そんなことを考えながら。
「ふ〜ん、じゃあ冬海ちゃんは?」
純情な一年生女子コンクール参加者の好みのタイプは、菜美でなくても密かに知りたい男子学生が山ほどいることだろう。
ここは押さえておかないと。
「わ、私ですか…?」
しどろもどろになる後輩に、助け船は出されない。
「好きな、っていうと難しい?う〜ん、じゃあね、こんな人だったらいいなっていうのは?冬海ちゃん」
「えと…あの」
ふふふ、可愛いわねぇ。
お姉さん二人は、そんな様子にさえ癒されてみたりする。
ダメな先輩だ。
「別にマジメに答えなくていいんだよー」
「そうそう」
二人でやんわり促してみる。
「…同じものを見て、同じことを感じてくれると嬉しいです」
「価値観が同じ、ってことか」
納得。菜美は頷いた。
すると香穂子が突然思い立ったように尋ねる。
「そういえば、冬海ちゃんって志水君の言動とか、かなり理解してるよね」
「あ! そうかも」
「そ、そんなことないです。…ただ、志水君は音楽に対する感受性が強くて…尊敬してます」
はにかみながら答える様子に、先輩二人は陰ながら二人を見守ることをこっそり誓った。
「さあ、私たちばかりに答えさせるのはズルイよね」
にやにやしながら香穂子が菜美に向き直った。
「え〜、別にいいじゃん。今日はコンクール参加者のお話ってことで」
逃げようとしてみたが、思わぬ伏兵もあらわれた。
「そうですよ、天羽先輩」
二人がかりで問いただされては、逃げ場がない。
「う〜ん、そうだなあ」
改めて考えたことはないけれど。
でも、きっと。
「自分が目指すものを知ってる人、かな」
志を持って、高みへと向かう人。
自分にも目指すものがあるから。
それを支えてくれるよりも、励まし合いながらそれぞれの夢に向かっていきたい。
ふいに脳裏をよぎったのはヴァイオリンの音。
誰よりも努力を重ねて、誤解されやすい“孤高のヴァイオリニスト”。
――しょうがないなあ。
思ったら、口元が綻んでしまった。
「ちょっと、菜美ちゃん。誰のこと考えてるのよ」
相変わらずにやにや笑いの香穂子にツッコミを入れられ、我に返る。
「香穂こそ!」
ムキになって反論する菜美を見て、オロオロと仲裁の声が入る。
「あの…お二人ともケンカは…」
きゃあきゃあと、盛り上がって。
三人は時間いっぱいまでしゃべり続けていた。
★★★★★
2007.6にしばらく置いてあった拍手でした。
コルダの女の子は可愛くって、みんな好きです!
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