小説《カコベヤ》
□片瀬の受難
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「優っ、てめぇ、バラしやがったな!!」
ある、日曜の昼下がり。
一謡の郷、加々良家に片瀬哲生の怒鳴り声が響き渡った。
「うるさいぞ、片瀬」
怒鳴られた設楽優は、あくびれた様子もなく答えた。
箏を爪弾く手も止めず、片瀬の方を見もしない。
「さっき愁一に言われたんだぞ『年の離れた恋人を溺愛するのもいいけど、隠し撮りは犯罪だろ』って!!あーっっ!くそっ隠し撮りじゃねぇぞっ!」
一謡当主の加々良愁一の口真似をして、片瀬は唸った。
それは、十中八九、白石陽菜の写真のことだ。
夏の騒動のさなか、その写真の存在をネタに優が片瀬を脅迫し、見事水季の居場所の聞き出しに成功したいわば勝利のアイテムだった。
しかし、問題は盗撮いかんではないはずだ。
「じゃなくてっ!」
話の本筋が逸れたのを片瀬は自分で修正する。
けれど盗撮呼ばわりされたのも、不本意だったに違いない。
「す〜ぐ〜る〜、お前言ったよな。バラさないって」
とりあえず凄んで見せるが、弱みを握られた片瀬が威嚇したところで優がひるむはずもない。
「別に僕はバラしてなんかいないぞ」
「じゃあ、どうして愁一が知ってんだよ」
「明月が」
「明月が!?」
「『そこに財布が落ちていたのですが、誰のものかわからなかったので、身分証明のようなものがあるかと中を確認しましたら白石様の写真が…』と困っていたから『白石の写真があるなら片瀬のだ』って教えただけだぞ」
「それが余計だっ!!」
ああ、これで当分愁一にからかわれ、明月に憐れな視線を向けられる。
片瀬の受難の日々は始まったばかりだった。
END
2007.5.23 野宮
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