小説《カコベヤ》

□淡い
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久しぶりに、森の広場に足を向けた。
けれど、人の多い広場にいる気にはなれず、広場を抜けて木々の生い茂る森に入る。
背の低い木の間に何か動くものを見つけて、月森は足を止めた。

「ちょっとだから、おとなしくしててよ…」

しゃがみこんだ低い姿勢で、背中を向けてはいるものの、あのウェーブのかかった明るい色の髪には見覚えがある。

天羽…?

すると何度か、シャッターを切る音がした。

「あっ!」

声がして、同時に白っぽい小さな影が走り去る。

「あ〜あ、行っちゃった。動く被写体はやっぱり難しいなあ」

影の消えた方を見つめて、彼女はくすりと笑った。

「まだまだ修業が足りないなあ」

よーし、頑張るぞー!

左手を腰に当てて右手の一眼レフを高く掲げる。
そうして、月森がいたのとは反対の方向に姿を消した。
別に隠れる必要はなかったのだが、何となく自分が見ていることを知られたくなかった。

――もう少し、見ていたかった。

目指すもののために、努力をしているのは自分一人ではない。

「まだまだ修業が足りない、か」

その言葉が心地よく響いた。
その言葉を口にしたのが彼女で嬉しかった。
そう思った自分の気持ちの微妙な変化に、まだ月森は気付いていない。


END

2007.4.20 野宮 拝
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