□花雪
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「だーかーらー」
満開の桜の下、溜息をついて立ち止まると新八は後の二人を振り返る。
定春の散歩がてらお花見に行きませんか、と提案したのは今朝がたの事で、
毎度今日は誰が散歩へ行くのか喧嘩になるので、いっそ皆で行ってしまえば良いのではないかと思っての事だった。
その案は意外にもすんなりと二人に受け入れられ、こうして三人と一匹で桜並木の下を歩いている。
最近は仕事の都合で、三人揃って出歩くことが少なくなっていたので内心嬉しく思っていたのだが、
道中、花見弁当は無いのか、花見酒は無いのかなどと二人が訴え始めてから新八のテンションは下がり続けていた。
咲き誇る桜を見るでもなく、周りの花見客から香る食べ物の匂いによだれを垂らし、桜酒は甘ぇんだろうなぁ、と恨めしげに周囲の酔っ払いを見つめる。
その姿にほとほと嫌気がさして、ついに二人に向き直った。

「僕らは定春の散歩がてら、お花見に来たんですよ?
お花見っていうのは、そもそも桜を眺める事が本筋なのであって、決して飲み食いする事がメインなんじゃないって事を二人はわかってるんですか?」
「それでもお腹は鳴っているネ」
「それでも酒と酒の肴も欲しい」
「家に帰ったら晩御飯があるでしょ。銀さんは無いものねだりをやめて下さい」
「新八のケチ!」
「ケチンボ!」
「何とでも言って下さい」
「メガネ!」
「ケチメガネ!」
「はいはい、それでいいですよ」
「アイドル!」
「オタク!」
「何言ってんですか」
「ケチ!」
「メガネ!」
「オタク!!・・・略して、」
「「ケメオ!!!」」
「意味わかんねぇよ!!無駄な所で連携図ってんじゃねぇよあんたら!!」

もう僕知らないですからね、と怒り心頭の新八は二人を置いて先に歩き始めた。
ずんずんと意気込んで歩いてから、定春すら自分のもとに居ない事に気づいて突如寂しさが胸を締め付けた。
季節は春で、桜は見事に満開で、周囲は皆楽しげな輪を作っていて。
なのに自分は今ひとり桜並木を歩いている。
――せっかく、久々に万事屋皆で外に出たのに。
ふいに込み上げてきた涙を溢すまいと、ぐいと天を仰ぐと、

「おい」
「うわっ」

自分を見下ろす銀時の顔が視界いっぱいに現れた。
驚いて呆然とそのまま見上げる新八の顔を、決まりが悪そうに見下ろす。

「悪かったよ」

ぼそり、と吐かれた言葉に目をぱちくりさせると、今度は前方から体当たりをくらった。
咳きこみながら前を向けば、定春の首に抱きついた神楽がこちらも決まり悪そうに、

「ごめんアル」

と口を尖らせて言うものだから、思わず声を出して笑ってしまう。

「あぁ!人がせっかく謝ってやってるのに笑うとは何アルか!」
「だって神楽ちゃん、あまりに子供っぽかったから」
「レディに向かって何言うネこのダメガネ!!自分だって泣きべそかいてたくせに!」
「な、泣きべそなんてかいてないよ!」
「ふん、嘘ついたって無駄アル。お天道様は騙せても、このグラさんは騙せないヨ!」
「あーはいはい、お前らその辺にしとけって」

今にも掴みかかろうとする神楽と新八の頭をわしわしと撫でると、銀時はもう一度新八の顔を覗き込んだ。

「まだ怒ってる?」

その少し不安げな顔を見ると、怒る気も削がれてひとつ大きく溜息をつき、新八は笑った。

「いえ、僕の方こそすみませんでした、いきなり怒って」
「あーいいんだいいんだ、わかってさえくれたら」
「前言撤回しましょうか」
「勘弁して下さい」

わん、と先を促すように定春が吠えて皆が歩き出す。
ふと気付けば先ほどまであった怒りや寂しさは、嘘のように溶けてなくなっていて、今あるのはとても穏やかな気持ちだけ。
満足気に歩く新八の横には銀時と神楽、そして定春。
ようやく花見らしくなってきた、と綻ぶ頬を春の風が優しく撫でる。


咲き誇る桜花を風は駆け、
舞う花雪が光を孕む。

隣立つ人の手を握り、
僕らはひたすら、春をゆく。







▲紘様へ、相互記念リク文。



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