□浮月
1ページ/1ページ


「金時ぃ、もうえぇがかー?」
「は!?ちょ、待て辰馬っ俺まだここに」
「とっとと離れんお前が悪い」
「ヅラてめぇ、そのヅラずり落とすぞ!!!」
「高杉、銀時はもう良いそうだ」
「わかった」
「晋ちゃん!!!一生のお願っ」
「放て」

高杉の合図で、辰馬の大砲が火を噴いた。
それは闇を駆る鬼神の如く、停泊していた天人の船目掛け走った。
着弾するや否や、船は轟音と共に煙を吐いて傾き始めた。

「おーおー、こりゃぁ見事な出来じゃぁ!!」
「天人ども、今頃泡くって逃げる準備してるぜ」
「どれもこれも、銀時という尊い犠牲の上に成り立った事だな」
「金時ぃ、おんしの事は忘れんぜよー」

暗い海面に向かって手を合わせる坂本に習って、後の二人も続く。
揺れる小船の上で黙祷を捧げると、高杉はパチン、と扇子を鳴らした。

「よし、作戦完了だ。帰るぞ」
「うむ。これ以上ここに居ると酔いそうだ」
「あっはっは。じゃぁ早く陸に戻って祝杯でもあげるろー。どうせ酔うなら酒のが良いき」
「偶には良い事言うじゃねぇか、辰馬」

小船が揚々と進路を陸に向けて走り始めて間も無く、がしり、と船を掴む手があった。

「ふざけんじゃねぇぇぇ!!!!!」

ざばりと海面から現れた者は、天人の船からほうほうの体で脱出した銀時であった。
砲撃後に船が傾きやすくなるよう、火薬を天人の船に仕込む役割を終えた彼が得た物は、
大量の海水と、友の裏切りであった。

「てめぇら、よくも…」
「いかん!!こりゃぁ噂に聞く妖怪海坊主じゃぁ!!」
「は!?」
「何っ、船に水を入れて沈めてしまうという…あれか!?」
「おい、お前等何」
「ヅラ、辰馬。何モタクサやってんだ、とっとと妖怪退治に加わりやがれ!!」
「「よしきた!!」」

船尾に捕まる妖怪海坊主を足蹴にする三人の罵声と、
哀れな妖怪、もとい銀時の悲鳴がこだまする中、
秋の月は、何事も無いかのように夜空にぽかりと浮かんでいた。




戻る TOP

 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ