□秋の日
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――何だって?

左右から差し出される物を見て、銀時の動きは止まった。
「銀さんの為に僕らと姉上と3人で選んできたんですからね。大事にして下さいよ?」
有無を言わせず、マフラーを銀時の首にふわりと巻くと新八は席を立った。
「銀ちゃんの為に、お饅頭全部食べずに持ってきてあげたヨ!!感謝して噛み締めて食べるヨロシ」
がすっ、と饅頭を問答無用で銀時の口に押し込むと、神楽もひょいとソファを離れた。
後に取り残されたのは、マフラーを巻かれ、饅頭を口に押し込まれ、驚きに目を見開いたままの銀時と、その様子を面白そうに眺める桂。
「銀時」
「…あぁ?」
「リーダーは、饅頭の皮が乾かぬよう、手の平で暖めながら持ってきてくれたんだろうな」
「…あぁ」
口中に広がる甘味を味わい、飲みこむ。
「そんな饅頭は、格別だろう」
「そりゃぁ」
幼い頃、自分も先生に同じ事をしたのを思い出す。
近所の畑の手伝いの褒美に貰った饅頭を先生に食べさせたくて、
皮が乾かないよう手の平で暖めながら、先生の帰りを待った。
待つ間、これを受け取った時の先生の嬉しそうな顔を想像すると、喜びに胸が膨らんだ。
途中、何度か桂や高杉の妨害には合ったが、無事饅頭は先生の手に渡り。
その時の先生の喜びようは、想像以上の物で。
それがとても嬉しかった事を、今でも覚えている。
「旨ぇよ」
幼い頃の自分が、大切な人に贈った物を。
大人になった自分に、贈ってくれる子等がいる。
「旨いに決まってる」
言って思わず綻ぶ口元を隠そうとマフラーを巻くと、じわりと温かさが染みた。
この温かさと、口に残る甘さが、胸を満たす。
「いい歳した大人が、誕生日だ何だと祝われても嬉しくなかったんじゃ?」
「うるせぇ。俺ァ永遠の少年なんだよ」
「なら少年、俺のも受け取れ」
「嫌だ」
何でだっ、と勢いよく桂が立ち上がるのと同時に、神楽が勢いよく部屋に飛び込んできた。
「銀ちゃん!!定春の散歩行ってないアルか!?」
「…あ」
「あ、じゃねぇよこのトーヘンボク!!」
バシっ、と銀時の頭を叩いてソファから引きずり降ろす。
「おかげで定春の膀胱はエライ事になってるアル!!とっとと散歩行くヨ!!」
「すみません神楽さん、俺の頭もエライ事なってる気がする。うねってる気がする」
「それは元からでしょうが」
溜息をつく新八と、膀胱がエライ事になってるらしい定春が待つ玄関に引きずられていく銀時を見送る。
一人残された桂は、少し途方に暮れながらも箱を机に大事に置くと、窓辺に向かう。
少し冷えた風に乗ってくるのは、金木犀の甘い香と、楽しげな声。
くすり、と笑うと窓を背にして部屋を眺める。
その風に吹かれて、壁に掛けられた日めくりがぱらりと揺れた。
十月十日。
「いい日じゃないか」
俺の贈り物は受け取らなかったが、と嘆く桂の声を聞く者は、誰もいなかった。




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