□秋の日
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かたん、と戸口の開く音がした。
また神楽が食べ物を漁っているのだろうと思い、再度まどろみ始めてから、今日は新八とお妙と三人で芝居見物に行っていた事を思い出した。
じ、と息を殺して物音に耳を澄ませる。
だが耳に届くのは屋外の喧騒と、定春の乾いた欠伸だけだった。

――風の音か。

溜息をついて寝ていたソファに座り直す。
欠伸をかみ殺して、呆けた頭で時計を見ると、もう四時間程眠っていた事に気が付いた。
窓を見れば、日差しも夕方のそれに変わっていて、物の影を濃くしている。

――そういえば。

定春の散歩行ったっけ。
神楽が出掛ける前に定春の散歩忘れんなヨ、と言い残していたような気もする。
「おぉい、定春。お前散歩行ったか?」
その問いに定春はわん、と元気に鳴いて答える。
「いや、わんじゃなくてイエスかノーで答えて下さい。定春、ほら、イエス?」
「ペットに無理強いをさせるとは何事だ」
突然の声に驚いてがばりと立ち上がると、廊下から桂が現れた。
「ヅラお前何やってんの。テロリストから足を洗って盗人に転職なんざ笑えねぇ冗談だぞ」
「ヅラじゃない、桂だ。人を盗人扱いするな。ちゃんとチャイムを鳴らして入ったぞ俺は」
そしてちゃんと手も洗ったぞ俺は、と両手を開いて見せる桂の後ろからトイレの水の流れる音が聞こえた。
ふふん、と何が楽しいのか自慢気に笑う桂を見て、目を覚まさなければ良かった、と銀時は心の底から後悔した。

「で、今日は何」
自然にソファに腰を落ち着けた桂を見て、何となく良い予感はしなかった。
大事そうに膝に抱えている包みを見るのも嫌で、出来るだけ視線を寄越さないよう桂の後ろの時計を眺めた。

――早く帰らないかな、こいつ。

「リーダー達はどうしたのだ」
きょろきょろと部屋を見回す度に揺れる黒髪も、今は少し欝陶しい。
いや、今日は尚更欝陶しい。
「あいつ等なら今日は芝居見物に行ってんだよ。用事はそれだけか?なら帰れ」
「お前の為に来た友に向かって何だその口は?…まぁいい」
どん、と包みを机に置いて、桂は不適に笑った。

「お誕生日おめでとう、銀時君」

――こいつ、今何て言った?

目の前の包みから目を逸らすように走らせた視線が、楽しげな桂の視線とぶつかる。
「誕生日だろう、今日」
だからほら、と桂は包みを示した。
「お前の為に用意したのだぞ。中々選ぶのに苦労したが」
「何お前、キモイ」
「キモイじゃない、桂だ」
「そうじゃねぇよ、馬鹿か」
どさり、と背もたれに身体を預けて銀時は天を仰いだ。
「もうおめでとうとか言われる歳じゃねぇだろが。祝われても何も嬉しくねぇよ」
「何を言うか。一年、また一年と歳を重ねる事が出来るのを感謝せねばいかんだろう」
「だからと言っていい歳した大人が騒ぐ事じゃぁねぇだろ」
もういいから帰ってくれ、と包みを見ずに手を振る銀時に桂は食いつく。
意地でも包みを受け取らせようと机に身を乗り出した時、玄関の方からバタバタと足音が聞こえた。
「ただいまよー銀ちゃん!!…あれ、何でヅラがいるアル」
パシン、と足で襖を開けた神楽の両手は、何かを包むように頭の上にあげられている。
「おかえり、リーダー。いや何銀時がな」
「まぁヅラの事なんてどうでもいいネ。それより銀ちゃん銀ちゃん!!」
身を乗り出す桂を完全に無視してぴょん、と銀時の座るソファに飛び乗ると、神楽はその両手を銀時の鼻先に差し出した。
「ん!!」
「ん、て何。ん?」
ふわり、と香る甘い匂いに思わず身を起こす。
にしし、と笑う神楽が手を開くと、そこには白く重量感のある、
「お饅頭アル!!姉御が茶店で買ってくれたんだけど、凄く美味しかったから銀ちゃんに持ってきてあげたネ」
「あーもう神楽ちゃん、先言っちゃ駄目だって言ったじゃないかぁ」
大量の買い物袋をぶら下げて現れた新八は、力尽きて廊下に座り込んだ。
「何言うネ新八。まだ私言ってないアル」
「あ、そうなの?ならいいか」
ガサゴソと買い物袋を漁って新八が取り出したのは、綺麗なリボンを巻かれたマフラー。
それを持って神楽とは反対方向に座って、銀時を二人で囲む。
「え、何。何なのお前等」

「「お誕生日おめでとう!!」」


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