□誓い
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父の言葉が、頭を巡る。
――吉田は危険だ。
――もうあそこへ通うのは止めろ。
――お前の命の為だ。
幕臣である父の元に、松陽暗殺の噂が耳に入った。
幕府からの忠告にも応えず、塾を開き、攘夷を説く松陽の存在は、
今の幕府にとっては目障りな存在でしかない。
その塾に通う息子の存在を少なからず良しと思っていなかった父は、
ここぞとばかりに松陽の危険性を晋助に説いた。
だが、その報せは晋助に松陽の命の危うさを教え、焦燥を駆り立てた。
「逃げて下さい。幕府の奴等が、先生の命を狙ってる」
一刻も早く、松陽を幕府の手の届かない所へ逃がさねばならない。
そう焦る晋助を目にして、松陽は面白い物を見るように晋助を眺めている。
「何がおかしいんだっ」
その様子に尊敬の念を忘れて憤然と立ち上がり、松陽を見下ろす。
「命が危ないんだ。なのに、何でそうのんびりしてんだよ!?
先生がいなくなったら、俺達はどうしたらいいんだ。
だからお願いだ先生、今すぐ逃げてくれ…頼むよ」
松陽の居ない世界など、考える事も出来ない。
松陽がこの世界の全てであり、光であるのだ。
それは自分だけでなく、銀時や、小太郎も同じはずだ。
この塾に通う皆が、松陽の光に焦がれて集っているのだ。
言いたい事を言うと、逃げる事を薦めるしか出来ない自分の無力さを実感し、
あまりの悔しさに涙が溢れる。
――泣くんじゃねぇよ。
自分の意思とは関係なく流れる涙を袖で拭く。
――何で、俺は子供なんだ。
子供でさえなければ。
自分がもっと大きければ。
両腕で顔を覆い、声を押し殺して泣いた。
お前は子供なのだ、と知らしめるように流れ出る涙は止まらない。
その様子を見て、それまで沈黙を守っていた松陽が口を開いた。

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