□ただいま
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「何をしているのだお前は」
聞き慣れた声に驚いて眼を開けると、
かつての戦友、桂の姿があった。
突然の登場に驚き過ぎて声も出ない。
ただ自分を見下ろす桂の顔を赤子の様に見つめるだけの時間がしばらく流れた。
その間に耐えかねてか、桂は嫌そうに顔を歪めて銀時の頭を蹴った。
「行き倒れの真似事なら町中でやれ。多少の慈悲は受けられる」
「誰がんな情けない真似するか、ごっこ遊びはお前の専売特許だろうが、ヅラ」
「ヅラじゃない、桂だ」
ほれ起きろ、と差し伸べられた手を掴んで立ち上がる。
久々に高くなった視界に違和感を覚えながら蹴られた頭をさする。
さすりながら現状を把握しようと頭を働かせるが、全く掴めそうにない。
「何でお前ここに居んだよ」
いつも通りを装って問う。
幼子のように情けなく泣いていた自分を、桂に晒したくはなかった。
かつての自分も、今の自分も知っている人間は数少ない。
その数少ない人間の内の1人である桂が目の前にいる。
自己嫌悪に陥っていた自分にとって、今この状況は良くない。
いや、最悪といえるかもしれない。
何とかしてこの状況を打破したい。
桂がここに居る理由を聞いて、適当にあしらって帰らせようと思った。
だが、次の桂の言葉でその作戦は不発に終わった。
「墓参りだ。お前もだろう」
真っ直ぐに銀時の眼を見る桂の眼。
その眼と、言葉に何も言えなくなった。
行くぞ、と突然踵を返して桂が歩き出したのでその後を慌てて追う。
何で、という言葉を飲み込んだまま黙って後を付いていくと、木立の切れ間にそれは現れた。
視界に広がる土饅頭。
その数だけ、かつての仲間がそこに居る。
その数だけ、かつての仲間が死んでいった。
銀時が探し求めていた場所。
銀時が赦しを乞いたかった場所。
そして、救いを求めたかった場所。
「銀時」
その光景に呑まれていた銀時を、桂の声は現実に呼び戻した。
仲間達の墓の中に凛と立ち、真っ直ぐに自分を見る。
「この者達は、お前の罪などではない」
「何…」
「自惚れるなよ」
少し、怒ったように。
言いながら、桂は近づく。
「お前は確かに強かった。白夜叉と呼ばれ、敵からも味方からも敬遠される程な。
だが、だからと言ってお前が全ての仲間を守らねばならぬという謂われは無いのだ。
かつての仲間達は、誰もお前に守って貰いたいなどと思っていなかった。
皆自分の意志で、戦場に立ち。
皆自分の意志で、散っていったのだ」
銀時の目の前で歩を止める。
だから、と言って銀時の方へ手を伸ばす。
「ありもしない罪に心を痛めるな」
慈しむように頬を撫でる、その掌の暖かさ。
自己嫌悪に蝕まれ、冷えきっていた心に染みる言葉。

涙が、止めどなくこぼれた。

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