□ただいま
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銀さんが家を出た。
あの戦いの傷を治す為に僕の家で居候生活を始めて2週間後の日だった。
いつもの様に朝ご飯を持って部屋に入るとそこはもぬけの殻。
机の上に、汚い字で書かれた書き置きが一枚。
「世話になった」
その日から既に三日、未だ銀さんは帰って来ない。


――寒過ぎだろコリャ。
江戸から遠く離れた山の中、銀時は防寒具の襟を詰めた。
この山に入って2時間歩き通しだが、
雪でも降りそうな位冷えた空気の為、かいた汗すらすぐ冷える。
軽くグチりながら目的の場所を探す。
銀時が白夜叉の異名を取って間もない頃、
彼らが拠点としていたのがこの山だった。
当時は灯の無い夜でも動けたものだが、
今となってはかつての記憶も曖昧でなかなか目的の場所が見つからない。
「年とったのかねぇ…俺も」
誰に言うでも無く、ぼそりと呟いてその場に倒れ込む。
未だ癒えない傷がしくしくと痛む。
その熱が仄かに温かく、あぁ、自分はまだ生きているのだと思い知る。
――まだ生き延びてるよ、俺は。
常に戦陣の先を行き、一番に敵陣に斬り込んだ。
あと一歩で、という状況を何度か経験したが、
それでも倒れた事は無かった。
いつも最後迄戦場に立っていたのは自分だった。
それを仲間は褒め称えたが、銀時は当時そんな自分を呪っていた。
仲間の命で、自分は生き延びている。
全ての元凶が己にあるような気がして、
塞ぐ日も少なくは無かった。
少しでも死んでいった仲間の為になるならと、
戦が終わった後の戦場を訪れ仲間の遺品を回収して簡素な墓を作った。
そうする事で、自分の中で何とか整理を付けようとしていた。
今、その墓を探している。
土を盛って、板きれを立てただけの本当に粗末な墓であったから、もう無くなってしまったのかもしれない。
――墓参りすら、許されねぇか。
未だ生き延びている自分を恨んでいるのかもしれない、
だから見つけられないのかもしれない。
自己嫌悪に蝕まれながら、自嘲気味に笑う。
声を押し殺して笑っていると、不思議と涙が流れてきた。
――もう、いっそこのまま。
ここでのたれ死んでしまった方が良いのだろうか、
かつての仲間達が眠る、この山で。
それもいいかもしれない、と思った。
それと同時に、それが楽かもしれない、とも思った。
眼を閉じて自分の心音に耳を澄ませる。
自分の意志とは裏腹に動く心音に念じる。
――止まれ、このまま止まっちまえ。
そして静かに、無音の世界へ身を委ねようとした。
その時。

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