□embrace
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夢を見た。
戦塵の中、刀を振るう銀色。
ただ目の前の敵だけに向けられた眼。
その姿が、恐ろしくて。
けれど、どこか悲しげに見えて。
抱きしめようと、手を伸ばすけれど届かなくて。
声を枯らして名前を呼んでも、その声すらも届かなくて。
そのまま銀色は戦塵の中に消えてしまう。
そこで、目が覚めた。

夢を見ながら泣いていたのか、頬に流れた涙を拭いて起きあがる。
襖を開けると、いつものソファにいつもの姿。
夢の中の姿とはまるで違う。
けれど。
駆け寄って挨拶もせずに横へ座る。
銀ちゃんは驚いた顔をして私を見て、
少し考えてから優しく私の頭を引き寄せた。
夢の中で抱く事の出来なかった身体にしがみつく。
止まった筈の涙が、また頬を伝って流れた。

ずっとずっと側にいるから。
だから。お願い。
1人にならないで。

その思いを知ってか知らずか、
銀ちゃんは黙って優しく抱きしめてくれた。




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