□rain
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再度抵抗を試みようかと考えていると土方が話し出した。
「お前はどう思ってるかしらねぇけどよ」
軋む廊下。
近づくのは大広間。
「近藤さんはこの日を楽しみにしてたんだ、ずっと」
空気がざわつくのを感じる。
先ほどまで見ていた庭が遠くなる。
「だから嫌そうな顔すんじゃねぇぞ、したら病院にブチ込んでやる」
広間に近づいたのを感じる。
中からくぐもった声が聞こえる。
どこか陽気な隊士の声。
静かにしろ、と叫ぶ声が一番大きな近藤の声。
「こっちに丸聞こえじゃねぇか…」
溜息と共にようやく降ろされた。
「病人のくせに重てーんだよお前は」
肩を回しながら不機嫌そうにこちらを見る。
そんなはずはない、と総悟は解っている。
昔と比べて筋肉は落ちたし、手を見れば筋張っている。
体重を測りはしてないが、昔よりかなり落ちているだろう。
そんな事は土方にも解っている事だ。
だからこの言葉は気を遣っているのだろう。
不器用な土方なりの、精一杯だ。
「総悟」
黙って土方を見ていた総悟の頭に手を置く。
眼が合う。
見透かされている様な気がして、眼を逸らしたい衝動に駆られる。
だが逸らせない。
「全力で生きろ」
土方の瞳の奥に何かが見えた気がした。
しかしそれを認識する前に、視線は逸らされた。
総悟の髪を乱すように撫でると土方は背を向けて襖を開いた。
声が爆発する。
皆の笑顔が、自分に向けられている。
あぁ、そうか。とようやく気付く。
今日は自分の誕生日だ。
皆に周りを囲まれながら振り返った襖の先の庭。
雨が止み、雫がきらきらと光っていた。




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