Short Storys

□切ない想い
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「ねぇねぇ、おと〜さん! あのりんごあめ買ってぇ〜!」
「あれか? …あんなでかいのお前食えるのか?」
 りんご飴の露店前、小さな女の子が父親に甘えておねだりをする。
 彼女が指差す先は、
 大人の拳くらいの大きさはあろうかという、赤く光った、
 りんご飴。
「食べれる〜。買って〜」
 乗り気じゃない父親に少女は、父親の浴衣の袖を引っ張って、ねだる。
 その動作に少女の浴衣の帯が金魚のように、ゆらゆらと揺れる。
「仕方ないな〜。…それ一つください」
 ついには可愛い娘に根負けして、父親がりんご飴を買った。
 少女は目の前に差し出された飴に、かぶりつく。
「おいし〜い!」
「はいはい。良かったな」
 父親は呆れたように笑うと、少女を抱き上げ、人ごみの中に消えていった。

「プッ」
 その様子を見ながら、亮太が笑う。
 隣には淡い水色の地に大きな花が描かれた浴衣を着ている、夕陽の姿。
 その手にはりんご飴が握られている。
「なんか、前に見たことある光景だったな」
 亮太がニヤリと笑う。
 夕陽はりんご飴を食べながら、亮太を軽く睨んだ。
「だって先輩が、何でも好きな物おごってくれるって言ったんじゃないですか〜」
 夕陽が飴を口から離して、プゥっと膨れた。
「そんなん喰ったら、この後何も喰えなくなんねぇ?」
「大丈夫です〜。別腹ですから」
「お前、どんだけ喰うつもりだ…」
 亮太は呆れて返した。

 亮太と夕陽は花火大会の会場に来ていた。
 花火大会が行われる、川の周辺には露店が並び、華やかににぎわっている。
 人ごみにぎゅうぎゅう押されながら、二人は会場を歩いた。
「あれ〜!夕陽?」
「お〜!久しぶり〜!!」
 声のする方へ亮太と夕陽が振り返ると、やきソバの露店の傍に5、6人の女の子のグループがあった。
 夕陽の顔がパッと輝く。
「うわ〜!皆久しぶり〜!!」
 夕陽はそのグループの方へと嬉しそうに近づいて行く。
「もう!あんた最近付き合い悪いんだから!」
 その中の一人が、夕陽をこづく。
「きゃあ。ごめんごめん〜。部活で忙しくって!」
 それを避けながら笑って謝る夕陽。
 その様子を、亮太は少し離れたところから静かに見つめる。
 心にポッカリ穴が開いたような…
 そんな感情が芽生える。
「あれ?あの人だれ?」
「もしかして夕陽のカレシ〜?」
 女の子達が亮太に気づいて騒ぎ始める。
 亮太のところにその中の二人が駆け寄って、亮太の腕を取り引っ張ってつれてくる。
「そんなんじゃないって! この人はセンパイ! 部活のセンパイ!」
 夕陽は顔を真っ赤にさせて否定する。
「ええ〜?またまた〜!」
 女の子達は茶化して遊ぶ。
 亮太は“センパイ”を強調されたことに心がざわついた。
「センパイ。お名前は〜?」
 その中の一人が亮太に尋ねる。
「…速水 亮太…」
 亮太はぶすっとしながらも答える。
「そっか〜速水センパイかぁ〜」
 その子は妙に納得したように頷く。
「この人。スッゴイ私のタイプ!」
 その子は亮太の腕に自分の腕を絡めて身体を寄せる。
「ええっ? ちょっ、友香!」
「はっ?」
 亮太は友香に腕を取られながら固まる。
 夕陽は友香に慌てて抗議する。
 夕陽の胸がチクチク痛んだ。
「な〜に〜? ただの部活のセンパイなんでしょ〜!?」
 その言葉に夕陽がうっと詰まる。
 亮太はその様子を静かに見ていた。
「あれ?速水先輩と橘?」
 その時
 後ろから声がかかった。
 亮太たちが振り返ると、バスケ部の二年生部員達がいた。
「先輩その娘だれですか〜?」
「腕なんか組んじゃって〜!」
 部員達が亮太と友香をみて茶化し始める。
 それに友香はますます亮太に身を寄せ、亮太は拒むが、
 なんせ女の子相手。そこまで邪険には扱えない。
「亮太センパイ!向こうへ行って花火見ましょ」
 友香がグイッと亮太を引っ張る。
 それにしぶしぶながらも亮太はついて行った。
 その後姿を寂しげに夕陽は見つめる。
「ゆ、夕陽? 友香のきまぐれが出ただけだから…」
 グループの一人が悲しげな夕陽の後姿に声をかける。
「…何言ってんの?大丈夫。私には関係ないもん!」
 夕陽はニッコリと笑ってその子に言う。
 でもすぐに俯く。
「橘」
 夕陽が顔を上げると姫野がいた。
「ちょっと一緒に来て」
「え?」
 姫野は夕陽の手を取ると有無を言わさず歩き出す。
 後に残された部員グループと女子グループは呆然と二人を見送るのだった。
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