Short Storys
□風花
7ページ/14ページ
あ〜。失敗した…。
あれ、絶対風花ちゃん変だと思ったよ…。
僕はいつものようにマイホームに登り、自己反省会中。
内容は保健室前での一件。
『何やってんのよ。早く入りなさいよ』
保健室の扉の前で固まった僕に投げつけられる、風花ちゃんの言葉。
僕は曖昧に笑った。
『あ〜。僕はここでいいや。風花ちゃんこの人運んでよ』
僕の言葉に風花ちゃんが顔をしかめる。
『は? あんたか弱い私にタケを運ばせる気?』
か弱くなんてないと思うけど…
『いいじゃん。もう目の前なんだから』
僕は苦笑いしながら、風花ちゃんにタケと呼ばれる男子生徒を押しつけた。
『ごめん。悪いけど、お願い!』
『ちょ、ちょっと…』
僕は風花ちゃんの方を振り返らずに、その場から逃げだした。
はぁ〜。
僕は深く深くため息を吐く。
だって、保健室の先生になんて説明するのさ。
それに、風花ちゃんにも僕が人間じゃないことが知られちゃう。
それは絶対嫌だったんだもん。
僕が何度目か分からないため息を吐いたとき、それは起こった。
―ガシャン!
突然の大きな音。
僕はびっくりしてその音のした方を見た。
そこに居たのは、さっき保健室へと運んだ男子生徒。
え〜と、風花ちゃんはタケとか言ってたっけ。
そのタケちゃんは、不機嫌絶好調の顔をして歩いてる。背後には、八つ当たりしたであろう自転車が駐輪場から飛び出していた。
何? 何であんなに不機嫌なの?
不機嫌に歩くタケちゃんを見つめる。
タケちゃんは僕の下まで来ると、ピタリと立ち止まった。
そして顔を上げる。
眩しそうに片手を顔の上にかざす。
タケちゃんは僕の影に入りながら、見上げる。すると、その表情が、次第に曇り始めた。
タケちゃんは無言で同じ所をじっと見つめると、僕に登り始める。ある枝の近くまで行くと、枝を真剣な顔で見始めた。しばらくすると、キョロキョロとあたりを見回す。僕の居るあたりも見たけど、彼は気付いた様子もなかった。
「ここだけか…」
タケちゃんは僕の枝を撫でると、そこからヒラリと飛び降りた。スタンと綺麗に着地する。
おお。すごいなぁ。やっぱり運動神経抜群なんだね。
タケちゃんがもう一度僕の方を振り返り、仰ぎ見た。そして踵を返すと校舎内に入って行った。