Short Storys

□風花
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 あ〜。重いよ〜。
 僕はまだ背中にでっかい荷物を背負って、校舎内をさまよっている。
「ちょっと。どこいくのよ」
 わわっ! どうしよう見つかっちゃった!!
 たぶんこれって、この人が浮いてさまよってるように見えるよね?
 やばいやばいやばい。
 僕は隠れるところはないか辺りを見回す。
「何、あんた挙動不審よ? 不審者としてつきだすわよ?」
 声をかけてきた女子生徒が、僕の脇から顔を出す。
「風花ちゃん!!」
「きゃっ! 何やってんのよ〜! 今授業中だって。静かにしないとみんな出てくるよ!」
「うう。ごめん…」
 風花ちゃんが小声で怒鳴るのに対して、僕も小声で謝った。
 怖いなぁ。もう。
「でもどうして風花ちゃんここにいるの?」
 風花ちゃんさっきまで授業受けてたはず。
「気分が悪いので保健室行ってきます…」
 風花ちゃんが片手を頬に当てて、か細く言う。
 な、なるほど…
 つまり仮病ってわけね。
「でもそれじゃ誰かついて来るんじゃ…」
「私がそんなことさせると思う?」
「思いません」
「ふふん」
 風花ちゃんって…
 初めの印象とずいぶん違うな…
「どこ行くつもりよ。保健室こっちよ」
 ふらふらと僕が曲がろうとすると、風花ちゃんが止めに入った。
「あ、ごめん…僕校舎の中よく覚えてなくって」
 僕の言い訳に風花ちゃんが眉をひそめる。
「もう五月も半ばなんですけど…」
 ま、まずい。
「早く覚えてください」
 僕がびくびくしてると、風花ちゃんはそれだけ言って前を見た。
 
 授業中の廊下はとても静かで、時々先生らしき人の声が聞こえる。遠くの方からは体育をしてる生徒たちの掛け声が聞こえていた。
「それにしてもあんたって意外と力持ちなのね」
 ん? 意外と?
 僕がちらっと見ると風花ちゃんと目が合った。
「何よ。何か文句あんの? ひ弱そうだもん、あんた」
 む。失敬な。
「これでも男の子なんですけど。それに僕にはちゃんと名前があるんですけど」
「ユメミ?」
 僕は無言で頷く。
「ユメミちゃん?」
「ちゃんは付けないで!」
 風花ちゃんがニヤニヤしながら呼ぶのに、ついむきになる僕。
 なんで〜? いい名前じゃないか。神様が桜の別名から付けてくれたんだよ〜?
 僕はむくれる。
「冗談だって。いい名前だと思うよ。桜の別名でしょ? 夢見草って」
 僕は驚いて風花ちゃんを見た。
「何よその顔。桜って女の人っぽいって言う人いるけど、私は違うね。パァって咲いてパァって散って、男らしい花だと思うんだけど」
 僕はニコニコとして聞いた。
「ま。あんたは名前負けだけどね」
 なんだと〜! 僕はジロリと風花ちゃんを睨みつける。
「悔しかったらタケおぶるのに弱音吐いてないで、さかさか歩きなさいよ」
 風花ちゃんはそれだけ言うと、一人でさっさと先に歩いて行ってしまった。
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