Short Storys
□風花
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そう、それは40年前―
空もキレイ。
風もないし。
僕は満足気に両腕を広げた。
両腕からこぼれ落ちそうなくらい、咲く花々。
さっきから視線が痛い。
うん、うん、わかるよ。
ほら、僕ってキレイだから。
今日は僕のいるこの学校の入学式。
さっきからピッカピッカの新入生たちが続々と登校してる。
体育館のあるこちらの門は裏門になるけど、こっちからも登校する子って多いんだよね。校舎の窓からも見える位置だしね。
僕はこの学校が建ってからずっとこの場所で、入学してちょっと大人になって卒業していく生徒たちを見つめ続けてきた。
今年も新入生が沢山入ってきたし、みんながどう成長するのかすごく楽しみ。
「風花。何してんの、HR始まっちゃうよ〜」
僕はその声のした方に視線を移した。
真新しいセーラー服を着て髪を二つ結びにした女の子。
あれは今年の新入生だな。
その子は校舎の入り口の所から渡り廊下の方に向って声をかけている。
その目線の先を辿ると、沢山の生徒やら保護者やらの姿が見える。
けど。
僕は一人の女の子から視線が離せなくなってしまった。
真新しい制服。
小柄で華奢な身体。
茶色がかった髪はふんわりと肩につくかつかないかの位置で、
白い肌に大きな目と桜色の唇がバランスよく並んでる。
キレイなのにカワイイ。
カワイイのにキレイ?
う〜ん、わかんない。
キレイな外見をしてるのに、雰囲気がカワイイ彼女は(これで解決)、渡り廊下から僕のことを見上げていた。
彼女と目が合った瞬間。
息ができなくなるかと思った。
だんだん自分でも顔が熱くなってくるのが分かる。
その時、ザアッと風が吹いた。
僕の花びらが風に舞いあがって、はらはらと降りていく。
と、彼女の方へ花びらの幾枚かが降りていく。
一枚は彼女の髪をなでて、
一枚は彼女の頬をなでて、
一枚は彼女の肩に降りて、
そして、一枚は彼女の唇をなでて…
「うん。今行く〜」
彼女は何も無かったかのように、二つ結びの子に声をかけると、肩に乗った花びらを手にして、校舎の方へと駆けて行った。
ほんの数分の出来事。
彼女の動作のひとつひとつに目が奪われた。
僕を見上げる瞳の色。
風が吹いた時の髪の動き。
花びらが彼女に触れる様。
言葉を紡ぐ唇の動き。
ひとつひとつが鮮明で、目が離せなくて、
愛しくて…
…愛しくて?
よくわからない。
でも確かなことは、彼女から目が離せなくなってしまったということだけ。
彼女が行ってしまった後、僕はふーっと息をつく。
彼女がいる間呼吸さえ上手くできていなかった自分に、苦笑する。でも、その動きさえ上手く出来ず、必要以上に緊張したこの身体は、ゼンマイ仕掛けのオモチャみたいに不自然に動いた。