Short Storys

□君に触れる手
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パンパンッ

高く澄んだ空に空砲が、吸い込まれる。
生徒達の声援も空へ高く高く吸い込まれていく。
赤、白、青、黄、緑、ピンクの6種類の色がグラウンドに彩りを与えていた。

現在トップは白、続いて青、赤、緑、黄と続き、ピンクが最下位である。だが全チーム僅差のため、逆転の可能性は充分にある。

間もなく午前中の一大種目、大縄跳びが始まろうとしていた。

夕陽は物凄く憂鬱そうな顔をする。
「頑張ろ〜ね♪夕陽!」
後ろから友人、さつきが声をかける。
ポンと肩を叩かれ、夕陽は微妙な微笑みを返した。
「…何浮かない顔してんのよ…」
さつきが呆れた顔をする。
「スポーツは何でもこなす人が…」
「走るのは好きなんだけどなぁ…」
さつきが夕陽の頭をコツンとこづく。
「とにかく頑張れ。チームの勝敗がかかっている!この種目得点高いんだから!」
そうこの種目、全員参加のため得点がかなり高めに設定されている。
―う〜、私跳ぶタイミングってうまくつかめないんだよねぇ。練習のときだって、よく引っかかってたし…
「…学年一位になったら、アイス」
さつきが戦意消失中の夕陽を見て、ごほうびをちらつかせる。
「アイス!!」
夕陽の目がキラリと輝くのを彼女は見逃さなかった。ニヤリと口元が歪む。
「じゃ、頑張るよね?」
にっこりと微笑む。
「うん!!」
力いっぱい元気に頷く夕陽。
「みんな〜!一位でアイスだって〜!!」
「えっ!」
夕陽の声にチームメイト一同目の色が変わる。
さつきそれにフリーズ。
「アイスだよね?」
夕陽がちらりとさつきの顔を見る。
「う、うん…」
「みんな頑張ろうねぇ〜!!」
「うおおおおお!!」
夕陽の声にチームメイト一同、気合を入れる。
さつきはその声にクラリとめまいをおこすのだった。

大縄跳び終了。
周囲と明らかに気合の入り方の違う、バカ一同は学年一位を掴み取ることができた。
「やったー!アイスー!!」
「アイス!アイス!!」
お前達の論点はそこか!
バカ一同、アイスに狂喜乱舞。
さつきの用意したアイスに夕陽が嬉しそうにかぶりつく。
さつきは切なくため息をつくのだった。

「よぉ!お前んとこすごいな!!」
アイスをなめている夕陽の後ろから亮太が声をかけ、ポンと頭をなでる。
「亮太先輩!先輩のチームもすごいですね!今のとこ総合一位ですよ!」
「俺がいるんだから当たり前!この調子で優勝いただくぜ!」
亮太がニヤリと笑う。
「え〜!!こちらだって負けませんよ!」
夕陽がべーと舌を出し、応戦する。
「ふぎっ!!」
「生意気だぞ〜。お前」
亮太が夕陽の鼻をつまみあげる。
「はだじでくだざい〜!」
「お。お前良いモン持ってんじゃん。一口も〜らいっ!!」
夕陽がじたばた暴れるのをよそに、亮太がアイスに目をつけ、パクッと一口ほうばる。
「あ゛〜!!」
夕陽が目に涙をためて叫んだ。
「じゃな。さんきゅう」
亮太はシャリシャリと口を動かしながら、嬉しそうに離れていった。
「うう〜。アイス…」
夕陽が棒に少し残ったアイスを切なげに見つめ、つぶやく。そしてさつきをちらり。
さつきはふいっとさりげなく視線をそらし、家族席へと歩いていくのだった。
その後弁当を食べ、夕陽の機嫌が直ったのは言うまでもない。
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