長話
□ep2
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「……………で?」
波乱万丈な入学式等々を終えて、早い事約1ヶ月。
新しい学校生活にも慣れが生じ、安定した日常の昼休み。
理苑は半ば呆れた顔で、シャーペン片手に頬杖を突いて、椎名と空夜を見た。
その視線を受けて、椎名は首を傾げる。
「……『で?』って………何が?」
「『何が?』じゃなくて、結局…今朝の登校時による喧嘩回数通算、約23、856回目ほどの勝敗の結果は?」
「………2万…いくつとか…よく数えたな…。」
冷や汗を垂らして空夜が呟く。
当然のように答える理苑。
「まぁね、だてに記録取って無いよ。」
「えぇっ!?取って無いのっ!?」
「取ってるよっ!!何このお約束な感じの件っ!?いらないだろっ!?」
「あぁぁあぁっ!!もう面倒臭ぇっ!!どっちでも良いっ!!」
空夜が声を上げて来たのに、椎名はニヤニヤと反応する。
「クゥちゃん馬鹿だもんねぇ〜。頭パンクしちゃうよねぇ。………いっその事パンクして死んじゃえば良いのに。」
「……………テメェのそのドMな頭、捻り潰してやろうか?」
「わぁおっ♪暴力反た〜い♪」
殴って下さいと言わんばかりの満面の笑顔。
「…上等だ。望み通りにしてやっから、歯ァ食いしばれ。」
「はいはい。分かったから止めろ。」
導火線に火が着きそうな雰囲気になった為、理苑は言葉で制した。
チッ、と舌打ちをする空夜と、それとは相対的に、相変わらずご機嫌な満面の笑みで鼻唄を歌っている椎名。
理苑は溜め息を1つ溢した。
「………で?勝敗の結果は?」
「「俺の勝ち。」」
2人は、綺麗に声を揃えて言った。
「あぁっ!?テメェ逃げ回って、最終的に逃げただけだろぉがっ!!」
「だ〜か〜らぁ〜、最終的に逃げ切ったんだから、俺の勝ちじゃないの?クゥちゃん、俺に傷1つ着けて無いよ?…………色んな物は壊したけど。」
「逃げ切ったら勝ちだなんてルールを決めた覚えは無ぇっ!!……………それに…アレらは壊れたんだ。」
椎名は溜め息を吐きながらも、肩を竦めて笑う。
「強情だなぁ。つーか、壊したんだよ。アレは。君が。…自覚無しか鈍感野郎。」
「…っせぇなっ!!とにかくっ!!逃げた事を勝ったとは言わねぇっ!!」
「ほぉ〜?じゃあ言わせて貰うけどっ!!傷1つ着けられずに、ましてや相手を逃がすなんて事も、勝ったとは言えないよねぇ〜?」
多少口調が荒くなる両者。
図星を疲れたように言葉に詰まるのは空夜。
「………んな゙…っ…!?」
「…はいはい、いつも通りドローね。」
理苑は呆れた顔で、机の上に広げたノートに記録した。
興味深げに椎名が覗き込む。
「理〜苑♪ちょぉっと見〜して?」
「別に何も面白く無いよ?」
「分かってるよ。良いじゃん別に。」
椎名はノートを取り上げて、マジマジと読み始めた。
「うわっ、すっげ…っ!!今までのもちゃんと書いてあんじゃんっ!!」
椎名の横から、ノートを覗き込む空夜。
相変わらず冷や汗を垂らして一言。
「…何か…文字とか数字の羅列見ると…食欲失せるな。」
「そぉ?…つか、俺ら16年連続ドロー?何か嫌だね。」
「あ?でもちょいちょい勝敗着いてるのもあるぞ?」
「……あ、本当だ。」
椎名と空夜の会話を聞いて、理苑が反応する。
「あぁ、決着着いてるのは、大抵勉強とかスポーツとか…単純などうでも良い勝負とかだよ。」
「あ〜…なるほど。」
「『喧嘩』って言う形では、一度も決着着いて無いよ。」
「「…へぇ〜…。」」
ノートを眺めながら、感嘆の溜め息を漏らすように呟く2人。
「流石ぁ♪」
「こういう事に関してはクソ真面目だな。」
「何その普段はおちゃらけぴーみたいな発言。心の底から心外なんだけど。」
「……お…わりぃ……っていうか…おちゃらけぴーって何だ。」
理苑、軽くスルー。
「君達の戦状及び現状、途中経過の報告が『一ノ宮(うち)』の仕事なんだから。いい加減に記録取ってたら、君たちのお家様に殺されるよ。」
「……あぁ…そういう…。」
椎名は『お家様』という単語を耳にした途端、あからさまに嫌そうな顔をして呟いた。
その空気に飲まれて、空夜は溜め息を1つ溢して、言葉を切った。
微妙な雰囲気で沈黙する中、理苑が軽く溜め息を吐いた。
「……ま…何はともあれさ………平和が1番だと思うけどね。」
椎名と空夜は、またも微妙な表情で黙り込んだ。
「…そして何よりも…俺を巻き込まないで。」
「ははは、全くだな。」
理苑の若干なマジな表情に、周防は笑って同意した。