長話

□ep6
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「テメェっ!!日本語理解出来ねぇのかっ!!待てっつってんだろっ!!ぶっ殺すっ!!」
「君こそ常識ってものを理解出来ない訳?『殺す』って言われて待つ訳無いじゃんっ!!それで待つのなんて、救いようの無い馬鹿か、相当自殺願望の激しい奴だけだっつのっ!!」
「もう1つあんだろっ!!このドMっ!!」
「暴力はウェルカムだが、ドMだって命は欲しいっ!!」
「知るかぁっ!!良いから死ねぇっ!!」
「基本的人権をもっと尊重しろっ!!」
「ドMに人権なんて要るかっ!!」
「テメェっ!!全国のドMに謝りやがれっ!!」


全速力で逃げながら、空夜に向かって怒鳴り散らかす。

息が切れ切れになって来ている椎名に比べて、空夜は一切息切れは無し。

「………って…言うか…っ!!…………何…っで、そんなに元気なのさ…っ!!」
「テメェが体力無さすぎるんだよっ!!」
「朝からド派手に喧嘩しながら、全速力で怒鳴り散らかしてりゃあ体力だって削れるわクソがぁっ!!お前が有り過ぎるんだよっ!!」



…あ〜っ!!もうっ!!
マジでヤバいっ!!足が縺れそうっ!!
つーか朝から元気良すぎでしょっ!!
何なのっ!?馬鹿なのっ!?



椎名は肩で息をし、心の中で叫びながら、全速力で走った。






「…………ぅわっ!!」
「…………え…、」





椎名が点滅し始めた信号を渡ろうとした時、


目の前に居る、両耳をイヤホンで塞いでいた、同校の生徒に衝突しそうになった。



椎名は急停止しようとした為、足が縺れてその場で転けた。
その生徒も、ぶつかってはいないものの、バランスを崩してその場に倒れた。






「「…………っ…!!」」





―……キギィィイィィイィイ…ッ



体勢を立て直そうとしたのもつかの間、大型トラックが2人に向かって突っ込んで来た。



何て有りがちな展開っ!!

なんて思ってる余裕も無く、


……ヤバ…っ!!



と、反射的に力一杯、目を瞑った。







―………ガァァアァア…ン…ッ





物凄い衝突音。



しかし、当の2人に痛みは無かった。





「……………おい…」
「………へ…?」

間抜けな声を上げて、椎名はゆっくり目を開いた。





そこに浮かんでいた光景には











『常識』をぶっ飛ばされた。










「………う…っそぉ…。」
「…あ?」


そう言って、不機嫌そうに眉を潜める空夜の右手は、











トラックのボンネットにめり込んでいた。



トラックの運ちゃんは、キレる以前に、何が起きたのか理解出来ず、固まっていた。




ぽかんと口を開けたまま、椎名が声を掛ける。


「…………クゥ…ちゃん…?」
「何だよ。」


未だに不機嫌そうな顔で答える空夜に対し、椎名はぽかんとした顔のまま、トラックを指差した。



「………それ…君が…止めたの?」
「ったりめぇだろ。」
「片手で?」
「あぁ。」
「トラックをっ!?」
「見りゃあ分かんだろっ!!」



……んな、逆ギレ(?)されても…。
つか、右手の肘鉄、めり込んでますよ?空夜さん。

と、心の中の感想。


……とりあえず…


「……おかしいと思わないのかっ!!君はっ!!」
「っるせぇっ!!交通の邪魔になってんだよっ!!早くどけっ!!」
「腰が抜けて立てんわっ!!」
「何で偉そうなんだテメェはっ!!」
「五月蝿いっ!!馬〜鹿っ!!」


―カチンっ


と、音が鳴った気がした。
まぁ、気がしただけ。

「……あ…ヤベ…っ…ちょっ、ちょっと待って…っ!!」

空夜は無言で椎名を、俵担ぎで持ち上げた。

「……椎名………捕獲完了。」
「…え…ちょ、何そのター●ネーターみたいなの…っ!!ちょっ…クゥちゃんっ!!とりあえず落ち着こうっ!!俺が悪かったからっ!!見逃して下さいっ!!流石に腰抜けたまんまじゃ無理っ!!」
「え?何?悪い、聞こえねぇ。」
「子どもかっ!!」


空夜は、座り込んだまま、呆然と此方を眺めている生徒に、手を差し出した。


「……わりぃな…立てるか?」
「…………あ…」


その生徒は、ハッと意識を復活させ、意識の戻った紅い瞳で空夜を見た。


「………あぁ…有り難う。」


紅い瞳のその生徒は、

綺麗な笑顔で、空夜の手を握り返して立ち上がった。





 
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