長話

□ep3
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「だって、他に方法無いじゃない。」
「まぁな〜…。」
「………お前ら…今まで何回ぐらい、その方法使ったの?」


椎名と空夜は互いに顔を合わせた。


「…さ〜ぁ?何回ぐらいだろ?」
「結構使ってるよな。」
「この方法思い付いたの、小3ぐらいだったよね。」
「……あぁ…1番悪知恵が働く時期だね。」

理苑は2人を冷めた溜め息混じりの笑いで見つめた。

理苑さんはそろそろ、幸せが尽きる頃かもしれない。


「まぁ、そんな訳で、クゥちゃんは〜…うん。周防と一緒に来て。俺、理苑と行くから。」
「おぉ。」
「…俺、まだ行くなんて一言も言って無いんだけどなぁ〜。」
「まぁ、良いじゃねぇか。な?」

相変わらず笑っていない目で呟く理苑の肩に、ポンッと手を載せて諭すように笑う周防。


「クゥちゃんとお風呂入んの久しぶり〜っ!!何年ぶりかなぁ?」
「…さぁな。」





「………………まぁ…珍しく楽しそうだから、いっか。」






理苑は、2人の姿を眺めながら、笑った。












「…やけに楽しそうだねぇ、椎名。」


鼻歌混じりでルンルン歩く椎名に、理苑は率直な感想を述べた。

「そぉ?」
「うん。…風呂入りに行くってだけで、そんなにテンション上がる?」
「だってさ、滅多に無くない?一緒にお風呂入るっていうイベント。」
「…まぁ…ねぇ。」
「何かさ、修学旅行ん時とか、無駄にテンション上がんない?」
「………まぁ…。」
「あれって何なんだろうね?」
「知らね。」

椎名は「だよね〜」と言って笑った。

「あんまり楽しそうにしてると、バレんじゃない?どっから監視してんのか知らないけどさ。」
「だぁいじょぶだって♪俺が楽しそうなのは、いつもの事だし。」
「………いつも以上に楽しそうですが?」
「そぉ?」
「うん。」

椎名は周りに目を配り、短く溜め息を吐いた。

「…じゃあ、もう少し抑えますか。」

肩を竦めて笑うと、先程までルンルンでは無いが、イヤホンを耳に挿して、鼻歌混じりに歩いた。

「…………椎名。」
「ん〜?」
「……それも…空夜のじゃね?」
理苑は、肘辺りまでだらしなく垂れ下げて着ている、焦げ茶色のダッフルコートを指差した。
椎名は、理苑の差す先である、自分の上着に視線を落とした。

「あ〜…そうそう。何か前に貸してくれたヤツ。」
「…それは返さないの?」
「結構何年も経っちゃったしね。それに、結構気に入ってるんだ。これ。」
「…借りパクじゃね?それ…。……何て言うか…それで良いのか?」
「さぁ?でも、本人の前で普通に着てても、何も言われないから、良いんじゃない?」
「…良かぁないと思うけどな。」
「俺が良ければいーの♪………………おっ。」

目的目前で、前方に逆方向からやって来た、空夜と周防を視界に捕らえた。

空夜と椎名は、銭湯の入り口の前で対峙した。


「………よぉ。」
「やっ♪何してんのさ。」
「別に…風呂入りに来たとこだけど。」
「へぇ、奇遇だねぇ。俺もだよ。」
「…そうか。」
「とりあえず、単純に風呂入りたいから、一時休戦ね♪」
「上等だ。………出たら腕相撲な。」
「え、待って。何それ。確実に俺不利じゃん。無理じゃん。絶対勝てる訳ないじゃん。」

先に中に入って行く空夜の背中に、椎名は食い付くように意見を飛ばしながらついて行った。


「………はっ、…何だこの茶番。」
「まぁ、いんじゃね?」
「……でも…これはさぁ…」
「まぁよ、今までやり続けて何も言われて無いんだから、い〜んじゃねぇの?」

理苑は諦めたように溜め息を吐く。

「………もう…良いよ。」

前の2人に遅れて、2人は中へ入って行った。









「……改めて見ると…すげぇ数だな。」
「あ?何が。」
「………傷。」

脱衣中、空夜がインナーに着ていたTシャツを脱いだ時、上半身だけだが、その傷痕を見て、周防が呟いた。

それを指摘されて、空夜は自分の身体を見回した。

「…………あ〜…これ全部あいつの仕業だわ。」
「『あいつ』って…」
「椎名だよ。」
「あ〜…やっぱり?」
「ったりめぇだ。他に誰がいんだよ。」
「まぁな。…………っていうか、これ全部あいつかっ!?」
「あぁ。毎回、ガッツリ痕に残るぐらい着けていきやがる。」
「……言っちゃあなんだが…本当にツギハギ人形みたいだな。」
「…………嬉しくねぇ。」
「……まぁ、ドンマイ。」

周防は宥めるように笑った。
着替えを進めながら、ふと疑問に思う。

「…そういやさ、」
「あ〜?」
「…いや、椎名っていつも空夜と喧嘩してる割には、傷痕とか無くね?」
「…そうか?…そうでもねぇぞ。」
「…そうなのか?」

 
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