長話

□ep3
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「…理苑。」

背後から聞こえた声に、椎名は本日二度目の肩ビクッ。

「うわぁっ!!びっく…びっくりしたぁっ!!」
「何でだっ!!」
「…もぉ〜。何?クゥちゃん。出てくんなよっ!!」
「はぁっ!?」
「お〜、何?空夜。」

椎名が言いたい事を言い終わったのを見計らって、理苑は空夜に声を掛けた。

「あ?あぁ〜…これ、返す。」

そう言って空夜は、椎名から視線を外すと、文庫本を差し出して来た。

「あぁ、どうも。…どうだった?」
「…まぁ、よく分かんねぇけど、面白かったと思う。」
「よく分かんないのに面白かったって、どういうこっちゃ。」
「っていうかっ!!クゥちゃん本なんか読むのっ!?」

椎名は空夜が差し出した文庫本を凝視し、あからさまに驚きを表現した声を上げた。

「…馬鹿にしてんのか、テメェ。」
「うんっ!!……あ〜、嘘嘘嘘っ!!ごめん、怒んないでっ!!」



「……椎名は空夜を怒らせたいのか、怒られたく無いのか…どっちなんだ?」

2人のやり取りを眺めながら、ぽつりと溢す周防。

「構って欲しいだけでしょ。ガキだし。」
「すぐキレる空夜もガキだと思うけどな。」



「…これはだな、理苑が面白いから読んでみろって、半ば強制的に渡されたんだよ。」
「読む気が無いなら返せば良かったじゃん。」
「別に読む気が無かった訳じゃねぇし、本を読むのは良い事だから、これを期に読んでみれば?って、蒼空に言われたんだよ。」
「弟に言われるって、兄貴としてどうなの?」
「…っせぇな。良いんだよ別に。鳩尾蹴り上げんぞテメェ。」
「ちょっと興味あるけど、流石に気絶するから止めて?」
「こらぁ、そこの2人。朝っぱらからイチャイチャしな〜い。」

「「はぁあぁっ!?」」


理苑の一言に、2人は同時に反応した。


「ちょ…誰が誰とイチャイチャしてるって?」
「理苑テメェ…っ、ふざけた事ぬかしてんじゃねぇぞ…?」
「うっせぇ。こっちは何年間そのやり取り見せられて来たと思ってんだよ。」

理苑は、馬鹿にしたような、呆れたような笑顔で、溜め息混じりに続けた。

「君らの口喧嘩なんて、俺にはバカップルの口喧嘩にしか聞こえない。」
「「な…っ!?」」
「ほら、んなこたぁどうでも良いから、どうする気なのさ、椎名。」

理苑はまだ何か文句あり気な空夜を、下から見上げる角度で、威嚇するように睨み付けた。
空夜は一瞬怯んで、諦めたように黙り込んだ。

「…………う〜ん…」

椎名はその間も、腕を組んで考えた。





「…そんな考える事か?」
「駄目だよ周防、そういう事言っちゃあ。椎名はタイミングを掴むのが苦手なんだから。」
「なるほど。」



椎名はパッと顔を上げて、空夜の腕に掴みかかるように、袖を掴んだ。

「…そうだっ!!クゥちゃん、










一緒に



銭湯行かない?」






「…………は?」
「「は?」」



空夜は多少固まってから反応を返し、流石の残り2人も、思わず反応をした。


まず意味が分からない。


「だから、銭湯行かない?」

椎名の問いかけに、空夜よりも先に反応したのは周防と理苑だった。

「……え…何で?」
「…ごめん椎名…俺、相当付き合い長いけど…流石に意味が分からないっ!!」
「えぇっ!?何で?…銭湯行こうって言ってるだけなんだけど。……理苑たちも来る?」
「あぁ、久々に行きたいかも〜……じゃなくてっ!!」

椎名の問いかけに、ヘラリとした笑顔で思わず返した理苑は、声を荒げて、机を叩いた。

「……何?」
「さっき迄の話の流れからして、何故に『そうだ、銭湯行こう』的な結論に至るっ!?」
「え〜?まぁ…たまには、お互いが居ない状態での休戦じゃなくて、お互いが居た状態での休戦を味わいたいなぁ〜なんて思ってさ。」
「…それ…上着返す事と何1つ結び突いて無いよ?」
「連想ゲームみたいなもんだよ。上着→私服→自分は今制服→着替え→気分転換?→お風呂?→ウチん家は無理→誰でも使用可→銭湯?みたいな?」
「回りくどっ!!」
「えぇっ!?駄目っ!?」
「…駄目かどうかは…空夜が決める事だろ。」

周防は溜め息混じり呟いた。

椎名は空夜を横目で見上げた。


「…え、別に良いけど。」
「ホントっ!?やったぁっ!!」
「マジかっ!!」
「…何なんだお前らっ!!」




「………ただよぉ…」

空夜は考えるように上を見上げて、小さく顔を掻いた。

「ん?」
「見つかったらマズくねぇか?」
「大丈夫、『偶然会いました』っていう形で行けばいいよ。」
「…またそのパターンか。」

 
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