長話

□ep9『死角求愛行動』
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【1】










「………愛してくれて……ありがとう…。」











………今でもその言葉は忘れられない。










その言葉の裏に隠した言葉も。




俺は全部気付いてた。


俺は全部分かってたよ。










離さないように







壊れてしまわないように







強く強く抱き締めた。



心の内から溢れてくる気持ちが
目から流れ出て、頬を伝う。


強く抱き締めれば抱き締める程、
それに答えるように、
君は、俺の背中に回した手を、強く握り返す。




溢れてくる気持ちが止まらなくて

それは君も同じで。





こんなにも近くで温もりを感じるのに



それは確実に終焉(おわり)を告げていた。











分かってるよ。








俺じゃ駄目なんだろ?






俺じゃ『あの人』の代わりになんかなれないって。










それでも俺は


君を守りたかったんだよ?








「………ねぇ………最期に…お願いがあるんだ…。」





そう言って、君は真っ直ぐ、揺らぐ事の無い瞳で俺を見た。







「……………君にしか…頼めない………君にやって貰いたいんだ…。











…………駄目…?」






隠しきれない不安を瞳に宿しながらも、君は笑う。



綺麗な笑顔で。







「……………俺に…出来る事なのか…?」
「……………君が良いんだ…。」



そう言って、ぎゅっと抱き着いてくる。







その時、直感的に理解した。











嗚呼、これできっと終わりなんだ。と。


この温もりを感じるのは







これが







最初で…最期なんだと。








だから黙って受け入れる事にした。



それを理解して、君は小さく「ありがとう」と呟いた。




「………………お願いだ…




















…君の手で………俺の事を殺して…?」



「………………っ…。」








拒否する事は出来ない。


君がそれを許さない。







『お願い』と飾った



『命令』。









「………あの人を…独りにするのは嫌だけど………でも……あの人の傍に……俺は居ちゃいけないんだよ…。」
「…………だから……なのか…?」
「…………うん…。」
「……………あの人の…為…?」







「……………俺は………愛されるべき人間じゃ…無いんだよ…。」
「…………………っ……それ…でも…」







今まで以上に、強く抱き締めた。



涙が止まらない。


気持ちが…想いが止まらない。



「………それでも…














…俺は…愛してたよ…………誰よりも…っ…。」




「…………うん…」



そう言って、彼は俺の頬に触れて、






精一杯に背を伸ばして、口付けた。








「……愛してくれて……ありがとう………。」











ありがとう。



君がそう言ってくれたから、











俺は安心して、また君を好きになれる。












(だけど、ごめんね。)










(俺は、君を愛してあげられない。)





その言葉を、
君が隠していた事も知ってるよ。










そんな君が
堪らなく愛しい。













「……………釉樹…。」

目が覚めれば、
俺はまた独り。


 
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