Duranta
□◆第五章 別れ◆
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「水を補給しておこう…川へ寄るぞ」
男がそう言って手綱を締めた。
延々と続く草原…彼は一体どうやって現在地を推し量っているのか…。
『ここはどの辺りなんですか?』
「エドラスとヘルム渓谷の中間辺りだ」
男は地理に詳しいのだろう、迷うことなく川へと辿りつく。
手入れの行き届いた剣や旅慣れている様子からもただの民ではないようだったが、それ以上のことはルリには分からなかった。
男は名前以外彼女の素性について聞いてこなかったし…気にしている素振りもない。
だから彼女も聞く切っ掛けを掴めずにいたのだ。
綺麗な水で顔や手足を洗っていたルリはふいに服を引っ張られて危うく川の中で尻餅をつくところだった。
何とか体勢を整えて振り返ると…。
ブルルルル。綺麗な駿馬がそこにいた。
『あなた…どこから来たの?』
彼女達が乗っている鹿毛の馬ではない…栗毛の馬が鼻をすりつけてくる。
『人懐っこいのね。…え?』
馬は彼女の服の裾を噛むと再びグイッと引っ張った。
馬の力に勝てるはずもなく、半ば引き摺られるようにルリは川上へと連れて行かれる。