Iris
□◆第六章 峠◆
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カラズラスの峠を一行は雪に行く手を阻まれながらも何とか進んでいた。
ガンダルフが先頭で雪をかき分け、アラゴルンとボロミアはそれぞれに子供の背丈しかないホビット達を抱えている。
ギムリは列の最後で荷物を積んだ馬を引き、レゴラスは少し先を身軽に雪上を歩きながら辺りを警戒している。
皆がそれぞれの役割を果たしていた。
そんな中、弱音を吐くわけにもいかず、ルリは歯を食いしばって彼らについていく。
いくら剣の腕が立つからといってスタミナや腕力はどうしたって男には叶わない。
それをカバーするには皆の何倍もの精神力が必要だった。
「ルイ。俺の後ろを歩け、風避けぐらいにはなるだろう。俺の足跡を辿るんだ」
そんな辛い状態でかけられたボロミアの声に思わず彼女の涙腺が緩みかけたのも仕方がないことだろう。
『あり…がとう…ございま…す』
声が震えるのを堪えて小さく呟く。
その言葉は吹雪に掻き消されそうだったが、ボロミアには届いたらしい。
彼らしい微笑みと言葉を返してくれる。「頑張れ」
「呪いの言葉が聞こえる」
ふと立ち止まったレゴラスが訝し気に眉をひそめる。
彼の言葉に皆も足を止めて耳を澄ますと風に紛れて届く微かな声。
「サルマンの声じゃ!」
ガンダルフの叫び声にルリは我に返った。
一瞬の光が空を横切り、ハッと上を見上げると大量の雪が襲いかかってくるのが目に入る。