Verbena
□◆第一章 疑惑◆
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エルロンドは返事をするつもりで顔を上げたが、彼がさっさと動いたのを見て今更返事もすることもないと再び視線をルリに向け…
「何か足りないものがあったら、遠慮なく言うように…まぁ、改めて言うまでもないと思うが」
あの金髪エルフが必要以上に与えるに決まってる…とエルロンドは呟いた。
『あの…』
書類に戻ろうとした彼は小さな声に視線を上げた。
「…何か欲しいものでも思い出したか?」
『いえ…そうじゃないんです…。その…ありがとうございます』
そう言ってルリはニッコリ笑った。
その無邪気な笑顔にエルロンドもつい口元が綻ぶ。
「失礼します。父上…少しお時間よろしいで…」
声が聞こえてきてスラリとした黒髪の美しいエルフの女性が入って来た。
その外見は明らかにエルロンドの血が見て取れる。
彼女は父に真直ぐ視線を向けて近付いて来たが、側まできてやっと椅子に隠れそうに小さいルリに気付いた。
「!?」
ルリも今までも見た事もないような美しい女性に見とれてボーッとしていたが、相手の声に驚いて我に返った。
「父上、いつの間に隠し子をっ!?」
「なっ…いや、違うぞ!」
「弁明するおつもりですか? この髪、明らかに父上の色じゃないですかっ」
「ちょっ…ちょっと待て。誤解だ…」
詰め寄る娘と焦る父。ポカンとしてそれを見るルリ。