Duranta
□◆第三章 恩人◆
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──ボロミアはその時、裂け谷に向けて馬で駆けていた。
父の命令を受けたのと不思議な夢見を確かめに…エルフの住まう谷へと向かっていたのだ。
ふと横へ流した視線が空へと立ち上るいくつかの煙の筋を捉える。
焚き火や狼煙の類いではない。
ボロミアは嫌な予感がして急いで手綱を引き締めると方向を変えた。
辿り着いたそこは、山間の本当に小さな村だった。
「酷いな…」
家々は焼かれ、村人達の無惨な姿が所々に晒されている。
見た所生存者はいないようだ。
火を怖がる馬を残して中へと歩み入る。
そこら中に刺さっているのは特徴的なオークの黒い矢。
その時、微かな悲鳴のような声が聞こえてボロミアは剣を抜くとその方向へと駆け出した。
村の一番奥まった家の前で…今まさに斧で斬りつけられた男が血まみれで倒れた。
その後ろに庇われていた一人の女性…先ほどの声は彼女のものだろう。
取り囲まれた彼女は恐怖のあまり立ちすくむだけ。逃げる事さえ出来ないようだ。
とにかくオークの注意を彼女から反らさなければ…。
ボロミアは側に倒れている男が握っていた伐採用の斧を取ると、オークの背に投げつけた。
ドンッと鈍い音を立ててオークが倒れ、彼らの目が一斉にこちらに向く。
「お前達の相手は俺だ」