Iris
□◆プロローグ◆
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ビルボが111歳の誕生日の日にエルフの元へと去り、フロドまでもが旅に出ることになった今、ホビット庄での繋がりのなくなる自分の身を案じてくれたのだろうとルリは容易に推測できた。
『でもフロド…どこへ行くの?』
ビルボの後を追うのかと思われたが、どうやら違うらしい。
「それは…言えないんだ、ルリ。言ったらきっとあなたにも危険がおよぶから」
『私…にも?』
不穏な言葉尻を捉えて、ルリの綺麗な眉がひそめられた。
『つまり…現状、あなたは危険な立場なのね?』
フロドは視線を落としただけで直接答えなかった。
『わかったわ』
フロドは理解してもらえたと顔を上げたが、次の言葉に大きい目をさらに見開いた。
『私も一緒に行く』
「な…何言ってるんだよ、本当に危ないんだってば」
立ち上がったルリに続いてフロドも腰を上げた。
『えぇ、そうね。だから一緒に行くの』
「ルリ…僕達だけなら隠れて移動できる。だけど…」
ホビットはその体躯のせいもあってか非常にすばしっこい。
彼らの存在が広く知られていないのは、その姿が目撃されにくいということもあった。
『もし私が足手纏いになったら置いて行っていいから』
ルリは寝室の部屋の前でくるりと振り返った。
そして成り行きで後をついてきたフロドの視線に合わせて幾分腰を屈めると彼の目先に指を突きつける。
『着替えるから、これ以上は入っちゃ駄目』
「あ…あぁ、うん。ごめん」
赤くなってどもるフロドの目の前でドアがピシャリとしまった。