Iris
□◆プロローグ◆
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『それでこんな時間にどうしたの?』
彼らの前にお茶を─ビールじゃないことに彼らは不服そうだったが、あいにくと彼女はビールを嗜まないためになかった─出しながらルリは、一番適任だと思われるフロドに説明を求めた。
外ではふくろうが鳴き、祭り事でもない限りホビット達はとっくにベッドに入っている刻限であること伝える。
「ルリ、僕達…」
フロドは言い辛いのか言い淀んだ。
青く透き通った宝石のような瞳が不安気に揺れる。
「ホビット庄を出て旅に出るんだ」
なかなか言い出さない彼にじれたのか、ピピンがアッサリと言った。『!?』
僕が言いたかったのに! それじゃいつまで経っても話が進まないじゃないか!…などと少しの言い合いを済ませてから、フロドはルリに向き直った。
「いつ戻ってこられるか分からないから…僕、ルリにお別れが言いたくて…」
訪問の目的を告げながら、彼の視線は徐々に下に落ちて行く。
ルリは紅茶のカップを置いて、その手でテーブル越しのフロドの手を包んだ。
温かい茶器を持っていた手は通常より暖かく、その心地よい感触に彼はホッと息をつく。
ルリは彼の手から顔へと視線を移して、目が合うとニッコリと笑った。
優しい彼は残していく私のことを気にかけてくれたのだろう。
ホビットは変化を良しとしない牧歌的でマイペースな種族だ。
そんな民族性の異端児であるフロドの養父のビルボに拾われたのが数ヶ月前。
怪我をして記憶を失いボロボロになっていた【人】である自分をホビット庄の外れに住めるように手を尽くしてくれたのも彼だった。
献身的に看病してくれたのはフロド。
外の世界に憧れているこのホビットの青年は外の話を聞きたがった。
…彼女が記憶を失っていたことでフロドの望みは叶えられなかったが。
それでも二人は仲良くなり長年の友人のような関係を築いていた。