Verbena
□◆第二十三章 魅了◆
1ページ/7ページ
愛馬から身軽に飛び降りると、ルリはその鼻先を撫でて労い、手綱を放して数歩進んだ。
木々に囲まれた森の中、真新しい質素な墓。
ここに眠る者の所業を考えれば、こうして弔うことも憚れることなのかもしれない。
しかし、彼女がそうしたいと願い出た時に、エルフの重鎮達は思うところはあっただろうに反対せず力を貸してくれた。
ルリは腰からエリアルの剣を外すとその墓標の前にソッと置いた。
彼が愛する女性に贈ったという剣。彼女を偲ばせるものはもうこれくらいしか残っていないだろう。
力があるが故に孤独で、力があるが故に道を誤った始祖。
死してなおその魂は孤独なのだろうか…。
エルシオンと剣を交えた時に感じたエリアルの記憶や感情との不可思議なシンクロは、あれ以来まったくなかった。
彼女の記憶は確かに残っていたものの、それはまったく別の人間としてのもので、エルシオンに対する溢れるほどの慈悲も親愛の情もすでに沈静化されている。
だからと言って人生を翻弄されてきた恨みつらみがあるというわけでもなく、ルリの胸にはただ切なさが微かな痛みとなって残っているだけだった。