いとしいあなたに幸福を
□10 蒼穹-そうきゅう-
3ページ/15ページ
「京、いい子にしてたか?」
「うんっ」
仔犬のようにはしゃぐ息子を抱き上げてやると、京は眼を輝かせて両腕を伸ばした。
「とーしゃま、たかいたかいー」
「はいはい」
――二歳になった京は、女性ばかりの使用人に囲まれて育ったせいか、早いうちから良く喋る。
まあ邸に勤める使用人の過半数は女性なのだから、仕方がない。
覚えていないが多分、自分もそうだったのだろう。
自分がほぼ咲良一人の手で育てられたのだが、京にはもう一人――愛梨がついている。
「あれ、そういえば今日は愛ちゃんがいないな?」
愛梨はいつも京の傍にいてくれる。
彼女は本来非番の日も、京が遊びたがるため、結局は毎日休まず京の面倒を見ていることになる。
「あの、愛ちゃんは…」
咲良は事情を説明しようとしたものの、戸惑いがちに口籠る。
「…?」
「あのね、とーしゃま」
くいくいと襟を引っ張られて京の顔を覗き込むと、京は少し困ったように首を傾げた。
「あいちゃん、ぼくのかあしゃまだよね?」