いとしいあなたに幸福を
□03 雲翳-うんえい-
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「…そのためには、結局は身分のある他国の令嬢との婚姻が必要だと?」
周は自分自身でも、少し卑屈な問い掛けをしたと思った。
背けた視線を母に戻すと、厘は珍しく困ったような表情で周を見つめていた。
「それは…」
流石の厘も、病で気弱になっていたのか。
周はばつが悪くなって、慌てて言葉を続けた。
「母上、捻くれたことを言って申し訳ありませんでした。母上が約束を果たしてくれましたから、俺も自分の発言にはきちんと責任を持ちますよ」
「…周」
「それで?こんな捻くれ者のお相手になってくださるのは、どちらのご令嬢なんです?」
厘はいつの間にかいつも通りの厳しい表情に立ち戻って、こちらを真っ直ぐ見据えた。
「…お前の相手を引き受けてくださるのは、秋雨の領主、占部(うらべ)様の末娘よ」
「秋雨の占部氏、ですか…?あの方は各国の領主の中でも身分について拘(こだわ)りの強い方では」
何度か顔を合わせたことはあるが、上流階級の人間以外とは口も聞きたくない、といった典型的な差別思想の持ち主だった筈だ。
周とほんの二、三言葉を交わす際にも厘の息子だから嫌々仕方なく、という態度があからさまに見て取れた。
「ええ…だから当然、そうすんなりと話が進んだ訳ではないのよ」
ということはこちらも何か、向こうの出す交換条件を飲んだということか。
そうでもなければ、普通なら自分との縁談など引き受けないだろう。
「そのご息女は、生まれつき肺の病で身体が丈夫でないのだそうよ。だから今まで、そういった話とは無縁だったそうなの」