ばらかもん

□島と海と彼女
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半田先生が倒れて、お見舞いがてら荷物を持って行った次の日、おやじとおふくろは先生を迎えに行ったので、のんびり漫画でも読もうとベットに転がった。


漫画を読み進めていると、ふと玄関で誰かの声が聞こえてきて俺は体を起こす。


なんだ?まだ、朝8時だぞ?早起きして訪ねて来るって事はヤスばか?




「すみませーん」





けど、声は若いし、聞いたことのない声?


誰だよ、俺はマンガ読むのに忙しーっつーの


と少し悪態をつきながら玄関へ向かうと、そこには茶色い髪をなびかせた高校生くらいの少女が立っていた。




「どちらさんですか?」




てか、普通に可愛いんだけど…。けど、田舎っぽい雰囲気ねぇーな。と、探るように問いかければ、彼女は丁寧にお辞儀をして人当たりのいい笑顔で答える。



「私、名無しと言います。半田先生が入院したと伺って……郷長さんのおうちはこちらですか?」



「あぁ、先生なら今日退院やけん、もうそろそろうちの親が家まで送ってると思いますよ。ちなみに俺の親父がその郷長です。」



「そうなんですか!いつも先生がお世話になってます。」



郷長の息子だと聞くとまた深々とお辞儀をする彼女は、歳のわりに礼儀正しい。つられて俺もペコリとお辞儀する




「あ……良かったら先生の家まで送ります。」



「本当ですか?助かります」


























先生の家につけば、名無しは真っ先に先生を見つけ飛びつく、そして締め上げる勢いで抱きしめていた。






「なッ!名無し!なんでここ……ぐはっ!!!」




「清――――!!!心配したよー!!!やっぱり一人暮らしなんか無理だよ!今日からは私がいるからね!大丈夫だよ!ご飯はちょっと勉強中だけど、幽霊とか大丈夫だし!虫も退治する!だから……ってあれ、清?!どうしたの?!まだ体調が悪いの?」



余りに強烈な抱擁に先生は胃の内容物が出る勢いで失神しかけていた。てか、あれは抱擁の域超えてんな……


若干名無しに恐怖しながらもとりあえず先生の命が心配なので止めに入る。

てか、さっきまでの清楚な女性はどこ行った?




「いや、名無し……あんたが原因やっけん、身体ばしめすぎやって」



「きゃぁぁっぁぁごめんなさいごめんなさい私、清が心配すぎてつい……」



「ゲホッ…グヘッ………はぁ…助かったぞヒロ。お前いなきゃ死んでた。」



やっと生き返った先生が俺に向き直る。そして、名無しを見れば嬉しそうに笑った。




「心配して来てくれたんだな名無し。ありがとう」



「ごめんなさい。取り乱した。先生が倒れたって郷長さんから電話もらって………てか、ヒロ君もありがとう。」





「いやー別に。てか、二人はどういう関係?」




見た感じ、名無しは高校生くらい。歳の離れ具合的に兄弟?でもにてねぇーし……友達?にも見えない…。それとも……




「あぁ、名無しはなんて言うか……その……恋人だ」



俺の疑問の眼差しに照れたように頬を描きながら言う先生。

その先生に恋人が居たんだと驚く俺。




「へぇー先生に恋人ばいた………」



けれど、すかさず訂正の声が響く。


どうやらお互い意見がくい違がっている様で。




「違うよ?親が決めたただの婚約者でしょ?」




「は?何言ってんだよ名無し!しかも「ただの」って……。俺は正式に付き合おうって言っただろ?」



「そうだっけ?でも、一人前になるまではダメって言ったよ?」



「そんなぁ―――」




半べそ気味の先生を、「約束でしょ?」となだめる名無し。まぁ、確かにあの可愛さじゃぁ恋人にしたくなる。


淡々と答える名無しの横でかっこ悪くすがりつく先生にちょっと笑えたのは黙っておこう。




「んで?結局何?」



「恋「婚約者です。親が決めたね」



「そんなに親を強調しなくてもいいだろ?」



「そうかな?大事よそこ。てか、私も今日からここに住むからよろしくね清。それと、ヒロ君」


「まっ、マジかっ!?」




とりあえず、また一人島の住人が増えました。


しかも、それは、半田先生の婚約者らしい……。



珠や美和あたりは驚くだろうな。

あぁ、一番驚くのはなるか……。



そんなことを思いながら俺は二人の夫婦漫才のようなやり取りを眺めた。
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