High Time

□尊皇の男
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滲んでいく血を見つめていると、風が耳をすり抜けて気味の悪い音が聞こえた。

それは気のせいでしかないのは分かっている。しかし、それでも実際にその音は私の耳の中でずっしりと腰を据えていた。

「痛い、耳が痛い」

「どうした」

「耳が、耳が少しだけ痛い」

私より少し先にいた晋助は、こちらに近づいてしゃがみ込んだ私の耳を見た。刀を握っていない方の手は何だかよく分からない何かで汚れていた。かたくこびり付いていて、手はざらざらとして何もかも不快だ。

「俺の声は聞こえるか」

「聞こえる」

でも晋助の声より、先程からすり抜けていく風の音の方が大きく聞こえた。ざあざあ、とうるさく私の中を通り抜ける。

「敵は」

「斬った」

「良かった。じゃあ、ここは一旦引こう晋助」

「駄目だ。行く」

「もういないじゃないか」

「いる」

「私には見えない」

「帰れ」

一瞬、視界にノイズが走った。ざざっとまるで雑音が入ったように。驚いて眼を瞑った。それから私は自分に向けられていた晋助の手をとっさに握った。

「無駄死にで終わる気なの?」

「無駄じゃねェ。確実に斬る」

「その自信、一度踏みつぶされればいい」

「知らねェンだよ、そんな事は。放せ」

手を振り払われて、ぐらついた。そのまま急いで晋助を後ろから抑える。私の鼻先に触れる晋助の髪はぐしゃぐしゃに汚れていた。私に触れた手と変わらないぐらい汚れていた。

「放せよ」

「死んだら、どうする」

「さア」

「じゃあ、死んだら何が残る」

「知るか」

「名だよ」

「ア?」

「人が死んでまで残すのはさ、名だよ」

「俺にはその意味が、まだ、よく分からねエな」



人死残

刀をしまうことのない晋助の姿を最後に私は崩れた。






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