High Time

□渦中にて
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足早に道を進んでいく。先は見えない。

「これは、どこに向かっているの」

「分からねェな」

強く掴まれているのは私の手ではなく、相当に汚れてしまった袖である。

足元は敢えて見ないようにして歩いている。出鱈目に散らばっている石や枝なんかを避けて歩けるほど、今の私に余裕なんてものはこれっぽっちもないからだ。

「転んでしまう」

「引っ張ってやる」

張り付いた名前の分からない虫が私の首や脚にへばりついている。元来虫嫌いの私は触れる事さえも危ぶまれるその存在。こんな時にはそれが平気になってしまうものなのだ。

「虫がついてるよ」

「取ってやらア」

乱暴に歩くから着物がよれてきている。出来損ないの私には、ちと荷が重いこの着物はボロボロになっていて、見れたもんじゃない。胸元に隙間が空いた。

「はだけそう」

「後で着付けてやる」

頬に何かがぶつかって、通り過ぎていくのがよく分かる。流れる木々に、流れる音に、流れる声に、流れる言葉に、全部がなくなっていく。ねえ、高杉。あんたには何が見えてる。

「嫌いさ」

「聞こえねエよ」

そう呟いて、高杉は私の袖から手を放した。代わりに強く握られた手が痛い。



先の地平線は映らない






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