High time
□嘘でもハッピーな気持ち
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「で、山手線で池袋駅を何回通り過ぎた?」
「3回、かな」
「3時間も座って何してたの」
「隣に座る人の携帯ちら見してmixi覗いたり、足組んで前に人を立たせないようにしたり、寝たりしてた」
「ハハッ!バカだねえ」
東京芸術劇場の無駄に広すぎるホールのベンチに座ること1時間。何やら不思議な気持ちになるこの建物は広くて静閑で、私は好きだ。
「眠い、なあ」
「サウナでも行く?」
「ホモの社交場にはいけません」
目を瞑って、緩やかに流れる意識を掴み取る。揺らしていた足を止めて、小さく息を吸った。
「この間、歌舞伎町の手前に出来た韓国料理屋行ってきたんだよねえ。パクヨンハのサインとかあったよ」
「おいしいの?」
「サイドの焼き肉が何とも言えない美味さだった」
「へえ、いいなあ」
「連れて行ってあげるよ」
「本当?」
天井から地面まで100m以上伸びる、舞台公演のポスターが外から入る風に当たって大きくなびいている。
「大きいなぁ」
私と同じように隣でくつろぐ臨也さんの手に、私の手がほんの一瞬触れた。感触なんかはなくて1oぐらいの熱がすれ違っただけ。それでも私は恥ずかしくてすぐに自分の背中に手を隠した。
「あぁ、大きい」
臨也さんはそう言って、背中に隠した私の手を握った。とっさに臨也さんの顔を見れば彼はいつもの表情でポスターを見上げていて、何を考えているのか私にはよく分からなかった。
「ご飯、食べに行こうね」
If it makes you happy
It can't be that bad.