High time

□嘘でもハッピーな気持ち
1ページ/1ページ



「で、山手線で池袋駅を何回通り過ぎた?」

「3回、かな」

「3時間も座って何してたの」

「隣に座る人の携帯ちら見してmixi覗いたり、足組んで前に人を立たせないようにしたり、寝たりしてた」

「ハハッ!バカだねえ」

東京芸術劇場の無駄に広すぎるホールのベンチに座ること1時間。何やら不思議な気持ちになるこの建物は広くて静閑で、私は好きだ。

「眠い、なあ」

「サウナでも行く?」

「ホモの社交場にはいけません」

目を瞑って、緩やかに流れる意識を掴み取る。揺らしていた足を止めて、小さく息を吸った。

「この間、歌舞伎町の手前に出来た韓国料理屋行ってきたんだよねえ。パクヨンハのサインとかあったよ」

「おいしいの?」

「サイドの焼き肉が何とも言えない美味さだった」

「へえ、いいなあ」

「連れて行ってあげるよ」

「本当?」

天井から地面まで100m以上伸びる、舞台公演のポスターが外から入る風に当たって大きくなびいている。

「大きいなぁ」

私と同じように隣でくつろぐ臨也さんの手に、私の手がほんの一瞬触れた。感触なんかはなくて1oぐらいの熱がすれ違っただけ。それでも私は恥ずかしくてすぐに自分の背中に手を隠した。

「あぁ、大きい」

臨也さんはそう言って、背中に隠した私の手を握った。とっさに臨也さんの顔を見れば彼はいつもの表情でポスターを見上げていて、何を考えているのか私にはよく分からなかった。

「ご飯、食べに行こうね」



If it makes you happy
It can't be that bad.







[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ