High time
□三文ゴシップ
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「花街、色町、江戸町、かぶきちやう。何でもあり。ここは、そういう場所ですよ」
片目を隠すように包帯を雑に巻いた男はゆっくり頷いた。夜の雑路に彼の派手な着物は映えている。一体、男は誰なのか。
「そんなこたァ、お前ェさんより知ってるよ」
「じゃあ、案内なんて、」
「お前ェ、真撰組お抱えの女中なんだろ」
わっと腕を掴まれ、どこに隠していたのやら小刀をちらつかせ、目の前に建ち並ぶ旅籠屋に私を盾にして向かわせた。
「宿を取れ。金ならある」
隅の階段を上って、二階の奥から三番目の部屋に入る。一息はつけなかった。男が依然、小刀の先を私に向けているからだ。
「やめて下さい。あなたは誰なんですか」
「知らねェのか?」
「知りません」
そんなに眉根をひそめなくても宜しいんじゃないかしら。
「お前ェ、真撰組の女中じゃねェのか?」
「それはあなたが勝手に言ったんです。私は真撰組の女中なんかじゃありません」
男は今までより一層、小刀を突きだしてきた。暗がりでも男が怒っているのがよく分かる。
「女中をしているのは私の姉なんです!私はいつも夜食を頂いているだけです」
背中が窓際に触れたのが分かった。外はネオンと人で輝いている。段々と男は近づいてきて、ついに小刀が首筋に触れた。ひんやりとしていて、それが恐怖の温度なんだと知って足がふるえた。男は言った。
「てめェの姉さんを呼ぶ気はあるか」
「ありません」
「じゃあ死ぬか」
「堪忍!」
男はしばらく私を、じっと見つめれば、すぐに小刀をしまい私の顔をむんずと掴んで自分の顔を近づけた。なんだかとても、
「綺麗な顔ですね」
「お前ェも中々だぜ」
少しだけ、緊張の糸がゆるくなった。
「帰して下さい」
「条件がある」
「何ですか」
「俺を匿え」